【現役FPの実例】住宅ローンで変動金利を選んだ理由とは?今後の見通しとリスク管理はこう考えた!
家を購入する際に、住宅ローンの借り入れで「固定金利」と「変動金利」のどちらを選ぶかは、多くの人が悩む点。長い期間をかけて大きな金額を返済していくローンですから、どちらを選ぶのが自分にあっているか悩むのは当然です。
しかしながら日本は長らくの低金利時代を迎えており、住宅ローンの金利タイプ別の割合は、2024年4月時点で変動金利が76.9%、固定期間選択型が15.1%、全期間固定型が8.0%と多くの世帯が変動金利を選んでいます。【参考:住宅金融支援機構による調査】
今回は、現役のファイナンシャルプランナーがどのような理由で変動金利を選んだか、また今後の金利変動の見通しや金利上昇に伴うリスク管理についてどのように考えたかの実例をご紹介します。
現役FPの私が、2019年に中古住宅を購入した際の実例をお話しします!
ファイナンシャルプランナー
以西 裕介
一般財団法人 確定拠出年金推進協会京都支部長 キッズマネースクール認定講師
法人・個人を含め年間800件程度の相談を受けるほか、資産形成セミナーも多数開催。
変動金利を選んだのは「手元に資金を残し、将来的な資産を形成したかった」から
住宅ローンを選ぶ際、「固定金利」と「変動金利」で迷う方は多いと思います。私もそのひとりでしたが、最終的に選んだのは「変動金利0.6%」。その理由は、手元資金をできるだけ多く残しておきたかったからです。低金利で借りることで毎月の返済額をなるべく減らし、余裕ができた資金をNISAやiDeCoといった資産運用に回せる点が魅力でした。
また、収入が固定給ではないため、返済額が手取り年収の20%以内に抑えられることも重要な要素でした。一般的に、住宅ローンの適正な返済比率は収入の25%以内と言われていますが、変動金利を選んだことで、余裕を持って生活できると考えました。
しかし、金利上昇のリスクを完全に無視するわけにはいきません。そこで、シミュレーションを活用し、将来の金利上昇をある程度想定した上で、どのようにリスクを管理するかを考えました。
ライフプランは、私と妻・子どもたち(2人)それぞれの人生の流れを一覧でみられるように表にまとめ、私たち夫婦が90歳を超えるくらいまでの家計の収支を仮定して可視化しました。
住宅ローンの支払いを抑えることで、手元に残る資金を将来的にどのように増やしていくかもプランに含めて考えています。
ライフプランはご自身で作るのはなかなか難しいですが、FPに依頼すれば作ることができます。ぜひ住宅購入前にプランニングして、さまざまなお金にまつわる要件を整理しておくことをおすすめします。
年収別の住宅ローン借入額の目安や、返済比率の考え方について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
金利上昇に備えたリスク管理で考慮した3つのポイント
変動金利を選ぶときに考慮したのは、今後の金利の見通しと、金利上昇した際のリスク管理について。主に以下の3つのポイントを軸に考えました。
- その1.大前提として短期間で急激に金利が上がる可能性は低い
- その2.「5年ルール」「125%ルール」で一定の安心感を得られる
- その3.インフレと金利上昇に負けない資産形成を行う
信頼できる情報をもとに今後の見通しを予測して、ローンを返済しながら将来の資産形成ができる方法を考えました。
具体的な内容や方法をご紹介しますので参考にしてください。
その1.大前提として短期間で急激に金利が上がる可能性は低い
日本は長期にわたり低金利政策を続けており、日本銀行が急激に金利を引き上げる可能性は低く、短期的に変動金利が急騰するリスクは少ないと考えました。
日本は長年、低インフレ・低成長の環境が続いています。日本銀行は、この経済状況を背景に、急激な利上げを行うよりも、低金利政策を維持して経済を下支えする方針を取っているというのが、その理由のひとつ。
そもそも日本銀行は、景気の変動やインフレ率の推移に応じて慎重に金利を調整します。通常、金融政策は段階的に実施され、急激な利上げは消費や投資に大きな影響を与えるため、短期間で大幅に金利を引き上げるケースは稀です。多くの場合、金利の変更は数か月から数年にわたる緩やかなプロセスを経て行われます。
パンデミックなどの予期せぬ経済ショックがあった場合、急激な金利上昇ではなく、むしろ景気を支えるために金利を引き下げたり、低金利を長期間維持したりする方向で対策を講じる傾向があることも知っておくといいですね。【参考: 日本銀行 金融政策決定会合】
このように短期的な金利の急激な上昇は考えにくいものの、長期間にわたる先読みは非常に難しいものです。景気変動やインフレ、政府の政策変更、さらには国際情勢の影響など、多くの予測困難な要因が絡み合うため、将来の金利動向について確実なことは誰にもわからないのが現状です。あくまで現状における一般的な見解と捉えてくださいね。
その2.「5年ルール」「125%ルール」で一定の安心感を得られる
変動金利には「5年ルール」と呼ばれる仕組みがあります。金利が上がっても5年間は返済額が一定で、実際の返済額は5年間据え置きとなり、6年後に返済額が上がる、というもの。変動金利は半年に1度見直しがありますが、急な支払い増加は起こらないため、安定した返済が可能です。また、「125%ルール」により、金利が大幅に上昇しても返済額は最大で25%しか増加しないという制約があります。これにより、金利上昇リスクに対しても一定の安心感を持てます。
ただし、返済額は変わりませんが、返済額の内訳(元金と利息)は変化します。金利が上昇していくと、返済額に占める利息の割合が多くなり、その分元金が減らないというのがデメリット。元金の減りが遅いと、結果的に総返済額も増えることになるので、それも見据えたリスク管理を行うことが大切です。
もっとも、住宅ローンにおける「5年ルール」や「125%ルール」といった激変緩和措置は、短期的な返済負担増を抑制するものではありますが、やや長い目でみれば、景気が緩やかに回復し、賃金上昇が続くもとで、返済負担は徐々に軽減されていくと考えられています。【参考:日本銀行 金融システムレポート(2024年10月号)】
変動金利は、一般的に短期プライムレートを基準に設定されます。短期プライムレートは金融機関が企業に貸し付ける際の基準金利で、景気や日本銀行の政策金利の影響を受けて変動します。そのため、金利自体は半年ごとに見直されます。
「5年ルール」や「125%ルール」は変動金利のリスクを軽減し、借り手が安心してローンを利用できるようにするための重要な仕組みと言えますね。
その3.インフレと金利上昇に負けない資産形成を行う
金利が上昇する背景にはインフレの進行があります。インフレが進んで物価が上がると、お金の価値が下がるため、借りているお金の負担も軽く感じられることがあります。つまり、将来収入が増えていけば、ローンの返済額がそれほど重く感じなくなる可能性があるということです。
例えば、NISAやiDeCoといった資産運用を積極的に行っている場合、資産価値の上昇がローン返済の負担を軽減することも期待できます。そのためには、やはり金利の種類や返済期間を慎重に検討して、生活費を圧迫しない範囲で住宅ローンを組むことが大切。家計に余裕のある返済計画を立てることで、収入の一部を資産運用や貯蓄に回す余力が生まれ、将来の安心感へと繋がります。
実際に我が家でも、毎月一定額をNISA含め証券口座に銀行口座から自動入金して、投資信託などで運用しています。
銀行に貯金していても、インフレによってお金の価値が下がっていく時代。変動金利で返済額を抑え、少額であっても運用にまわすことをおすすめします。資金を安全に増やしていくコツは「長期・分散・積立」。ぜひFPに一度相談してみてください。
変動金利を選んだ決め手はシミュレーションによる返済額の予想
先述したように、短期間で金利上昇する可能性が低いとはいえ、絶対にないとは言いきれません。そこで、日本住宅ローンのシミュレーションツールを活用して金利上昇による具体的な返済金額の増加と、固定金利の場合の返済金額について予測してみました。
実際の借入金額は、2,000万円、返済期間は22年。シミュレーションでは、以下の2つのパターンと固定金利の場合を想定して計算し、比較しました。
当初0.6%、5年後に1%、10年後に2%、15年後以降は3%に上昇するケース
▶︎総返済額は約2,290万円
当初0.6%、5年後に1.5%、10年後に3%、15年後以降は5%に上昇するケース
▶︎総返済額は約2,432万円
▶︎総返済額は約2,423万円
大幅な金利上昇が起きた場合でも、固定金利と変動金利の総返済額にはほとんど差がないことがわかります。この結果からも、変動金利を選ぶことが理にかなっていると感じました。
もちろん借入金額や返済期間によって結果が異なるため、ご自身の状況にあわせてシミュレーションしていただく必要があります。「もしもこうだったら」を仮定してシミュレーションしておくことで、金利上昇にもあわてずに済むかもしれません。
これから住宅ローンの借り入れを検討する方には、ぜひ一度シミュレーションすることをおすすめします。
【参考:日本住宅ローンシミュレーション】
ちなみに、住宅ローンの「店頭金利」と「実際に適用される金利」は同じではありません。店頭金利が「基準金利」としての役割を果たし、実際の借り入れ金利はそこから「優遇金利」を差し引いたものが適用されます。インターネットなどで調べる際には、店頭金利がそのまま適用されるわけではないので知っておきましょう。
【参考】実際に固定金利との差額を投資・運用した場合どうなる?
ここからは参考として、実際に変動金利と固定金利の月々の住宅ローンの支払いの差を投資・運用した場合、どうなるのかを解説します。
前提:借入額2,000万円、返済期間22年 ※変動金利の場合も金利の変動がないと仮定して計算
月々の住宅ローン返済額 ▶︎ 80,886円
月々の住宅ローン返済額 ▶︎ 91,801円
両者の差額はおよそ1万円。その差額だけを、返済期間と同様の22年間投資・運用した場合と単純に貯めた場合、どれくらいの差が出るのかみてみましょう。
総額:472万円
総額:264万円
毎月1万円を長期にわたって運用するだけでも、ただ貯蓄するだけの総額とはかなりの差がでます。ただし、資金を安全に増やしていくコツは「長期・分散・積立」が必須。ぜひ信頼できるFPに相談してみましょう。
上記の投資・運用は、年率5%の福利運用を想定した試算です。ちなみに、もっともポピュラーとも言える米国の代表的な株価指数のひとつ「S&P500」の過去50年間の利回りは10%を超えています。
住宅ローンを選ぶタイミングで、インフレに負けない資産形成についてもぜひ検討してみてください。
家を購入するタイミングの考え方
家を購入するタイミングは各家庭の状況や人生設計によって異なりますが、資金がある程度貯まるまで待つよりも、健康なうちにローンを組み、長期的なライフプランをしっかり立てる方が賢明な場合があります。
早い段階で計画的にローン返済を始めることで、完済時期を見据えやすくなり、ライフイベントに合わせた資金計画も立てやすくなります。また、健康なうちに団体信用生命保険付きのローンを組むことで、万一のリスクにも備えられるという利点も。こうしたリスク管理を含めた長期的なプランを構築することで、資金面でも安心しながら、早めに自分の家を持つ喜びを享受できると考えます。
ちなみに、私が家を購入したのは、家族構成や生活環境により必要に迫られたことがきっかけでした。当時、家族4人でマンションに住んでいましたが、下の階から子どもの騒音の苦情が入るようになり、一軒家の購入を検討。
エリアを絞って1年以上かけて希望に沿った中古物件が出るのを待ち、最終的には旗竿地の物件でリノベーションを実施。新築で建てるよりも予算が抑えられて、住宅ローンの借入額も理想どおりになりました。
長期的なライフプランを立ててリスク管理すれば変動金利を選んで問題なし
結論として、変動金利には金利上昇のリスクがありますが、家庭ごとに長期的なライフプランを立て、リスク管理をしっかり行えば問題なく利用できる選択肢です。家を買うことはゴールではなく、そこからあらゆる楽しみを見出していくもの。余裕のある家計のやりくりができれば、生活レベルを下げずに暮らしていくことができます。
住宅ローンの返済比率をなるべく抑えて手元資金を少しでも多く残すことで、積極的に資産運用に回すことも可能です。その結果、将来的に返済負担を軽減することもできるでしょう。こうした準備と計画を実行することで、変動金利を選びながらも安心してローン返済を続けることが可能であえると考えます。
大前提として、家計を圧迫するような無理な住宅ローンの借入は、将来的に後悔につながる可能性があるため、避けるべきです。収入が同じでも、各家庭の支出が異なれば適正な返済額も当然変わってきます。まずはご家庭のライフプランをしっかりと立て、長期的な資金計画を練ることが大切です。