内なる声に耳をすませて自分のための自由を見つけ出す [自由に住みたい大人たち Vol.8 圷 みほさん]

住まいや暮らしに求める自由の形は人それぞれ。衣食住に長く寄り添う物を扱うショップオーナーの圷 みほさんが見つけた “自由” とは?
PROFILE●圷 みほ
オンラインショップ「acutti」代表。横浜市に実店舗であるアトリエも構える。Instagramではフルリノベーションした自宅のインテリアや暮らしを紹介し、ファンも多い。著書に『かごと木箱と古道具と。』(ワニブックス)
空間に “余白” が欲しかった
9年前に集合住宅の中古物件を購入してリノベーションした圷 みほさん。緑の多い敷地で、眺めや風通しが良く、心が躍った部屋だった。とはいえ、エレベーターなしの5階にある住戸。実際の暮らしに不便はなかったのだろうか。「入居した頃はまだ2歳だった娘を抱いて、ベビーカーと買い物袋を持って階段で行き来していました。ちょっと大変でしたが、まとめ買いしたり、宅配を利用したりと工夫して。娘も幼稚園に入る頃には一人で駆け上がるようになったので、振り返ると一瞬のこと。今となってはいい思い出です」

ネガティブになりがちな条件にもつまずくことなく、独自の価値観で選び抜いた物件。長く住んだ今だから正解だったとわかる。中でもよかったことの一つが “空間的余白” だ。「当時は娘が小さいので、大きな箱としてみんなで伸び伸び暮らしたい。そして娘が成長したら、第二弾のリノベがしたいと思っていました。でも、自分たちのその先の暮らしは未知の世界だったので、どんな空間にしたくなるかは分からない。だからとりあえず “余白” をつくりたかったんです」。そのためには、ほとんどの壁を壊してワンルームのように使え、空間にゆとりがあることが重要だった。

2歳の長女が小学3年生になり、余白を活かす時が訪れた。ダイニングキッチンの奥にあった「何もないスペース」にロフトベッドを造作。セミクローズドなベッドは長女のお気に入り、その下は夫の趣味空間に。部屋の中に築かれた小さな城は、家族それぞれの「今」を反映させている。


暮らしはもっと自由でいい
「キッチンの近くにベッドをつくったので、遊びに来た友達には『なんでここに?』って聞かれます。確かに不思議な間取りなんですけれど、私たちにとってはそれが暮らしやすくて楽しいなと感じていて、違和感がないんです。リノベを通して、自分たちが自由を楽しむこと、どう暮らしたいかを大切にすることへの思いが強くなっていて。気づいたんですよね、暮らしはもっと自由でいいんだな、って」
長女に何かを伝えるとき、自由という言葉を使うことが多い。「先日、娘が『学校では、これをこうしなきゃいけないんだよ』と教えてくれたんですけれど、私たちは『決められたルールよりも、自分がどう思っているのかを大事にしてね』『もし違うなと思っているなら、そのまま受け入れるのではなく、自分がどう思ったかを先生に伝えたらいいと思うよ』と伝えました。『考え方はもっと自由でいいんだよ』と」

スローガンにしているもう一つの “余白”
圷さんにとって、自由を楽しむことは変化を楽しむことと同義。窓外の樹々が季節の移り変わりを教えてくれることも、娘の成長に合わせて、親子で話しながら室内の模様替えをすることも、暮らしの中の愛おしい変化だ。「特に、娘の成長はその時々で言動がどんどん変わります。変化し続ける今を目いっぱい楽しもうと思うようになったのは、この家に来てからですね。物事をどう捉えるかで生き方って変わると思うんです。一つのことを大変だと思うか、それを楽しもうと思うかで生き方が違ってくるなら、せっかくだからどんな変化も楽しんでいきたいなと思っています」

変化と同じくらい、心に留めていることがある。「リノベするときに物理的な余白を大事にしましたが、心にも常に余白を持っていたいですね。それが私のスローガン。心の余白があると、何か起きても、あまり動じず、楽しく暮らせるなって思います」。余白がないときもいっぱいありますけれど、と肩をすくめた圷さん。その考えに至ったのも、この家がきっかけだった。
「リノベして好きな空間をつくって、好きなものに囲まれて過ごせているだけで、ここを大事にしよう、余白を大事にしようと、自然に思えるようになったんですよね」

自分を見失っていたことに気がついて
暮らし方も子育ても自由で柔軟。そんな彼女だが、子どもの頃は「こうしなきゃ、というタイプ」だったと話す。そのまま社会人になり、生真面目に頑張り続けたことが響いて27歳で体調を崩した。「その時、自分は好きなことを仕事にしているのだろうかと、考える余裕すらなかったことに気が付きました。心に余白がないと、今、目の前にあることで視界が埋まってしまう。そこだけの小さな世界にとどまってしまうんですよね。でも余白があれば、好きなものや大切にすべきものが見えてくることを痛感しました」
「好き」を仕事にしようと決めた。結婚をした時期でもあった。自分のやりたいことはなんだろうと考え、カフェや雑貨ショップのイメージが浮かんだ。子育てもしてみたかった。そこから転職して販売経験を積み、3年後に独立。妊娠、出産、「acutti」の起業と、人生の航路は大きく弧を描き、大海原を進んで行った。「マイペースでゆっくりゆっくりやってきて今に至ります。その転換期に暮らしや気持ちを支えてくれたのも、この家と家族でした」


これからの暮らしと二拠点
今、夢中になっているのはキャンプだ。「子どもの頃から家族でよく行っていましたが、頻度は今がピークかも。娘が中学生になって忙しくなると時間を取りにくくなると思うので、積極的に行っています。そうしていると、地方に好きな場所ができて『ここで暮らしたらいいかもね』『二拠点をしたら楽しそう』という話も。私は計画を立てるのが得意ではないので、まだふわっと話しているくらいですけれど、家族で話し合って『今だ!』って思える時が来たら、きっと急に実行しちゃうんだと思います」
造作したロフトベッドも、この家で作るか、次の家をリノベするときに作るか迷ったが、決断してからは早かった。「結果、ここに作ったので、今の家は完成形。もうリノベするところはありません。だから次! とにかく楽しかったから、次のリノベをしたいというのも引っ越したい理由の一つです(笑)」

自分の “好き” をまっすぐ見つめる
「最近、リノベをするおうちが増えてきて、SNSにもおしゃれな暮らし、素敵な暮らしがたくさん出てきますよね。見ていて楽しいんですけれど、情報があふれていて、自分たちに合った暮らしを見落としてしまう場合もあると思うんです。でも家づくりをするなら、誰かのイメージや既成概念に振り回されないでほしい。まずは、自分たちがどう暮らしたら心地よいのか、どんなことが好きなのか、しっかりと見つめる。 “自由に暮らすための準備” をするところから始めることが大事だなと思います」
自分自身と対峙し、心の内を探り出す。誰の色でもなく、オリジナルに染め上げたからこそ「ここは自分にとっての自由な住まいになった」と、圷さんは静かにうなずいた。

構成・取材・文/樋口由香里 撮影/水谷綾子
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