不動産における買付証明書(買付申込書)とは?売買契約書との違いや法的効力を解説!
不動産物件を購入する際には「買付証明書(買付申込書)」を提出する必要があります。
「買付」の「証明」と言う言葉のイメージから、購入を約束する証明書というイメージが湧きますが、実際はそうではありません。
買付証明書は「キャンセルできるもの」と認識できれば、気に入った物件をみすみす逃す事態も防げます。
そこで、買付証明書の概要と記載項目、提出するメリット・デメリットを紹介します。
買付証明書が何のために必要でどんな効力を持つものなのかについても、詳しく解説しますので、ぜひ最後までご覧ください。
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鰭沼 悟
宅地建物取引士、不動産投資家歴15年、元銀行員。不動産仲介からリノベーション設計・施工をワンストップで提供する株式会社grooveagent(ゼロリノベ)代表取締役。
買付証明書(買付申込書)とは
買付証明書とは、買主の物件に対する購入意思を、売り手側がしっかり確認・管理しておくための証明書のことです。
買付証明書は、仲介会社の担当者と物件を内覧し、気に入った物件であるときに、売主又は仲介会社宛に提出する書類でもあります。
「物件が気に入ったので、買います」という意思表示にもなるため、物件の購入時には提出が必要になるケースが多いです。
1-1.買付証明書の法的効力の有無
買付証明書に法的効力はなく、仮に、提出しなかったとしても、特にペナルティは発生しません。
買付証明書はあくまで、購入の意思表示をしていることに過ぎないため、それほど重く考える必要はありません。
1-2.買付証明書の有効期限
買付証明書の有効期限は、1〜2週間が一般的です。
これらの有効期限は、不動産会社によって決まっていることがほとんどです。
一般的には、買付証明書の提出後の1〜2週間以内に、後ほど説明する「売渡承諾書」の提示が行われます。
1-3.買付証明書の書式と書き方
買付証明書の書式と書き方に関する決まりは、特にありません。買付証明書の作成は、仲介会社を通じて行うのが一般的です。
仮に、自分で買付証明書を作成する場合には、インターネットに掲載されている雛形やテンプレートを使用します。
1-4.買付証明書の提出タイミング
買付証明書は、物件の購入意思がある程度固まったタイミングですぐに提出します。
他にも購入希望者がいるなら、早めに買付証明書を提出し購入意思を示しましょう。
買付証明書の提出先は、直接やり取りする相手に提出します。基本的には仲介会社を通じて売主に提出になりますが、たとえば、不動産会社を介さず、直接売主とやり取りをする場合には、買付証明書を売主に提出します。
買付証明書の記載項目と作成方法
ここでは、買付証明書の記載項目と作成方法を紹介します。
買付証明書の記載項目と作成方法は、以下のとおりです。
- 年収
- 購入希望金額
- 手付金
- 土地・物件に関する情報
- 残代金
- 金融機関・融資利用の情報
- 引き渡し希望日・有効期限
不動産会社とやり取りする場合には、これらの記載項目は全て記載してもらえます。
しかし、自分で作成する場合や買付証明書の理解を深める場合には、7つの記載項目と作成方法について確認しておきましょう。
2-1.年収
年収は、購入予定者が物件購入にふさわしい収入があるかどうかを判断するための記載欄です。
虚偽の年収の記載は、信用問題に関わるため、正しく記載しましょう。
会社員の場合には、源泉徴収票の支払金額に記載されている金額を記入します。
個人事業主の場合は、所得金額を記入します。
会社員と個人事業主によって、年収の確認方法が異なるため、注意しましょう。
2-2.購入希望金額
購入希望金額は、物件をどれくらいの金額で購入するのかの記載項目です。
支払い可能な範囲内での金額を記入します。
人気物件の場合、買付証明書が複数提出されることが考えられるため、高めの金額を記入するケースも考えられます。
どの金額に記載するべきか分からないという方は、仲介担当者に相談しながら進めましょう。
2-3.手付金
手付金とは、売買契約締結時に、買主から売主へ預けるお金のことです。
買付証明書の提出時には、手付金を支払う必要はありません。
しかし、買付証明書の記載項目には必要になるため、物件に見合った手付金の金額を記載しましょう。
2-4.土地・物件に関する情報
土地に関する情報では、地目や公図上に記載されている地番・延べ床面積を記載します。
物件に関する情報では、建物の構造について記載しましょう。
木造・重量鉄骨・RCなど、建物の構造を示す内容を記載します。
土地・物件の情報が不明な場合は、不動産会社や仲介業者に問い合わせしましょう。
2-5.残代金
残代金は、購入希望金額から手付金を差し引いた金額のことです。
一般的に物件の引き渡し時に、残代金を支払います。
住宅ローンに関する情報の記載が必要な場合には、その残代金を記載しましょう。
2-6.金融機関・融資利用の情報
買付証明書には、金融機関・融資利用の情報の記載が必要です。
たとえば、ローン融資をどれくらい受けるのか、融資の対象、諸費用などをどこまで含むのかを記載します。
融資の利用を検討していて、融資先が決まっていない場合は、未定と記載しましょう。
2-7.引き渡し希望日・有効期限
買付証明書には、売買契約や引き渡し希望日などの、スケジュールを記載しましょう。
買付証明書提出後から物件引き渡しまでの交渉を円滑に進めるために、必要になります。
有効期限は、1〜2週間が目安です。
場合によっては、購入希望金額と売却希望額に差があったり、価格交渉が落ち着いたりする可能性がある場合もあるため、有効期限に余裕を持たせることをおすすめします。
買付契約書(買付申込書)と売買契約書との違い
買付証明書と売買契約書には、以下の違いがあります。
買付証明書 | 売買契約書 | |
目的 | 不動産の購入を意思表示するための証明書 | 不動産の売買契約を結ぶ際の書面 |
法的効力 | なし | あり |
手付金の有無 | なし | あり |
本人確認書類 | なくても良い場合がある | 必要 |
キャンセル | 可能 | 可能。条件によってはキャンセル費用が発生する。 |
買付証明書と売買契約書では、目的から法的効力、手付金の有無まで大きく異なります。
どちらも不動産を売買する際には、必要不可欠な書類ですので、売買契約書についても理解を深めておかなくてはいけません。
買付証明書(買付申込書)を提出するメリット
ここでは、買付証明書を提出するメリットを紹介します。
買付証明書を提出するメリットは、以下のとおりです。
- 売主との交渉がスムーズに進められる
- 不動産会社からお得な情報が手に入る
- 値下げに関する情報が優先的に手に入る
- 仲介会社との信頼づくりができる
4つのメリットを確認し、買付証明書の重要性を再認識しましょう。
4-1.売主との交渉がスムーズに進められる
人気が高い物件の場合、買付証明書を提出するライバルが多数現れます。買付証明書を提出していないと、購入意思を示すこと自体ができません。
買付証明書の記載項目には、引き渡し希望日や有効期限などの引き渡しまでのスケジュールを記載します。
これらの項目を詳細に記載することで、買付証明書提出後から売買契約までの交渉がスムーズに進みます。
4-2.不動産会社からお得な情報が手に入る
不動産会社目線では、買付証明書を提出した人を強い購入意思を持った人と認識します。
買付証明書を提出している物件がなかなか合意に至らない場合、優先的に値下げの意向を共有してくれたり、他の物件を紹介してくれたりするケースがあります。
「買付証明書を提出している物件以外に興味はない」と考える方も多いですが、買付証明書の記載内容から自分にあった掘り出し物の物件情報を提案してもらえることも。
4-3.値下げに関する情報が優先的に手に入る
ある程度の期間が経っても、契約合意に至らない場合、売主は物件を早く手放すために、価格の引き下げを検討します。
物件価格の引き下げは、仲介担当者の耳に入ります。
仲介担当者は、値下げ情報を見込み客でもある買付証明書を提出している人へ優先的に声掛けするため、欲しい物件の値下げに関する情報が優先的に入ります。
そのため、買付証明書を提出し、なかなか契約に至らなかった場合でも、諦める必要はありません。
4-4.仲介会社との信頼づくりができる
買付証明書を提出することにより、仲介会社との信頼構築ができます。先述の通り、買付証明書を提出する人は強い購入意思をもった人と仲介会社は認識するためです。
物件の購入を考えている方にとって、信頼できる仲介担当者と巡り合えることは、非常に大切です。
1度、買付証明書を提出し、契約に至らなかったとしても、仲介担当者に希望条件や購入意思が伝わっていれば、確度の高い別の物件に出会える可能性が高まります。
買付証明書(買付申込書)を提出するデメリット
買付証明書を提出するデメリットは、ほとんどありません。
しかし、人気が高い物件であれば、買付証明書が多数提出されます。
売主は、数ある買付証明書から条件が良い内容と合意を結ぶことになるため、自分より後に提出した人から交渉が始まることも。
1番初めに提出したからといって、優先的に交渉が進められることではないことに留意しましょう。
買付証明書(買付申込書)を提出する際の注意点
ここまで、買付証明書を提出するメリット・デメリットを紹介しました。
買付証明書を提出する際には、いくつかの注意点があります。
ここからは、下記の順序で買付証明書を提出する際の注意点を紹介します。
- 買付証明書は売買の正式な申し込みではない
- 安易なキャンセルは信用問題に関わる
- 損害賠償が生じる可能性がある
1つずつ詳しく紹介していきます。
6-1.買付証明書は売買の正式な申し込みではない
あくまで買付証明書は、購入希望の意思表示の書類になります。
物件の売買は、買付証明書後に交渉を重ねたのち、売買契約書を結ぶことで完了します。
買付証明書には優先順位がありません。
1番初めに提出したからといって、必ずしも優先的に交渉を進めるわけではないのです。
複数の買付証明書が提出された場合、売主は金額や引き渡し希望時期などの条件が良い方から交渉を進めることがほとんどです。
6-2.安易なキャンセルは信用問題に関わる
買付証明書提出後に、キャンセルをしたからといって、ペナルティはありません。
しかし、安易にキャンセルしたり、無断で音信普通になったりすると、売主や、仲介会社との信頼問題に関わります。
特に、仲介会社は、買付証明書の準備と売主とのやり取りなど、多岐に渡る業務が必要になっています。
安易なキャンセルは、今後の取引や信用問題にも関わるため、「本当に提出して問題ないか」を慎重に検討しましょう。
6-3.損害賠償が生じる可能性がある
買付証明書の提出後、購入の方向で交渉を進めていた場合に、正当な理由なく一方的に売買契約を拒否した場合には、契約締結上の過失責任に問われることがあります。
契約準備に入っていると、売主や仲介する不動産会社に損害を与えてはいけないという義務があります。
正当な理由なく一方的に売買契約を拒否することは、これらの義務に反することに繋がることになるのです。
損害賠償が生じる大きなトラブルを回避するためにも、買付証明書を提出する際に、書類の内容を慎重に検討する必要があります。
買付証明書(買付申込書)の出し遅れで起こりうるリスク
ここでは、ケース別の買付証明書の出し遅れで起こりうるリスクを紹介します。
実際、ゼロリノベでもタッチの差で買付証明書を出すのが遅れ、悔しい思いをするお客様もいらっしゃいます。
後々、後悔しないためにも、ゼロリノベで実際に起こった2つの事例について確認していきましょう。
7-1.【ケース1】価格交渉中に買われてしまった
神奈川方面の人気エリアで物件を探していたOさんご夫婦。自分たちの希望する条件で1〜5番まで優先順位をつけて物件の内件をしていました。5番目4番目は眺望や立地などの理由で断念。順番に見ていき、1番の物件を見ると、想定していたよりも抜群によい物件でした。
しかしその物件は、自分たちが決めていた予算よりも50万円ほど高い物件でした。そこが気になり、売主に価格交渉を持ちかけてから数日ご夫婦で考えた結果、やはりどうしてもほしい物件だということで、価格交渉を取りやめ、満額で申し込みをしましたが、その数日の間に別の方が満額で申し込みをして購入されてしまった後でした。
そこから新たに物件を探して別の物件の購入ができましたが、気持ちの整理や希望の物件が出ないなどの理由で、購入までに数ヶ月が必要となり、家賃の出費が増える結果となりました。
7-2.【ケース2】悩んでるあいだに買われてしまった
世田谷方面で物件を探していたKさんご家族。自分たちの希望していた条件に当てはまる物件を見つけ、さっそく内見に。周辺環境や街の雰囲気も思っていたよりもよく、物件自体も問題がありませんでした。
しかし、物件を探し始めてすぐに条件に当てはある物件を見つけてしまったため、「これで決めてしまっていいのだろうか?他にもあるんじゃないだろうか?」と、他の物件の内見もし、その上でやはり最初の物件にしようと決意したときには他の方に買われてしまった後でした。Kさんご家族は現在他のエリアで物件を探している最中です。
【相談者】
気に入ったら即買付証明書を提出したほうがよさそう。
【アドバイザー】
前述したように、複数の物件にいくつも申し込んだり、冷やかしで買付証明書を出すのは売り主や不動産会社にとって迷惑ですからやめておきましょう。
一方で、「これぞ」と思う物件に関しては、逃すと後悔が大きくなります。買付証明書を提出すればより詳しい物件情報がわかります。むしろ買付証明を出さないと購入意思のない人には情報提供しませんという売主側は存在します。
ピンときた物件があれば問題が見つからない限りは購入するつもりで、なるべく早く申し込むことをおすすめします。
買付証明書(買付申込書)の返答をする「売渡承諾書」とは
売渡承諾書は、買付証明書への返信にあたる書類で、売主との交渉権にも該当します。
実務上は、口頭で伝えることがほとんどになるため、このような書面を用意するケースは少ないです。
参考程度に売渡承諾書について、認識しておきましょう。
買付証明書(買付申込書)に関するよくある質問
ここまで、買付証明書について深掘りしてきました。
さらに買付証明書についての理解を深めるために、よくある質問を3つ紹介していきます。
9-1.買付証明書を出した後の優先順位はどう決まる?
買付証明書を出した後の優先順位の決め方に、明確なルールは存在しません。
売主によってさまざまですが、一般的に以下のように優先順位を決めることが多いです。
- 買付証明書の提出順
- 買付証明書に記載されている条件
- 売主の個人的判断
優先順位を買主から、決定することはできません。
また、優先順位を決めるための明確なルールも特にないため、参考程度に確認しておきましょう。
9-2.買付証明書の宛名は誰にすればいい?
買付証明書の宛名は、仲介物件では仲介会社が一般的です。
売主が直接的に、物件の募集をしている場合には、売主が宛名になります。
物件の売買相手が誰になるかによって、宛名は変わるため、記載間違いに注意しましょう。
まとめ
買付証明書は、買い手側が売り主に対して購入意思を示すためのものです。
法的拘束力は無いため、買付証明書を提出した後に購入を取りやめても、問題にはなりません。
購入意思は高いことを前提とした書類ですが、「キャンセルするかもしれないから」とせっかく気に入った物件に対して購入意思を示さないと、人気物件であればほかの購入者が現れてみすみす物件を逃すことになってしまいます。
多くの方は、そんなに早くは売れてしまわないだろうと思いますが、売れてしまった後に「しまった!早く申込書を出した方が良いとアドバイスをもらっていたのに。」と気がついてから、次回の物件から判断を素早く出来るようになります。
そうならないように、この記事を読んで早く決断出来るように心を決めておきましょう。
物件との出会いは一期一会ですから、後悔しないように慎重かつ迅速に判断することをお勧めします。