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ホセ・ムヒカ:世界一貧しい大統領の「自由への挑戦」とは?人物像とその哲学

ホセ・ムヒカ

「世界一貧しい大統領」として親しまれている、元ウルグアイ大統領のホセ・ムヒカさん。2012年のリオ会議での伝説的なスピーチは世界中で話題となりました。

優しい好好爺の印象が強いムヒカさんですが、若い頃は持ち前の正義感からゲリラに身を投じてリーダーに上り詰め、4回の逮捕と計14年間の投獄を経験。長期の投獄を経て「自由」の尊さを噛み締めた彼は、ウルグアイの大統領として社会的平等や人間の尊厳といった自由を実現するための施策を打ち出しました。

ムヒカさんが世界に影響を与えた名言や、彼の思想とその背景、政策等を、これまでの活動とともにたどってみましょう。

目次

世界に大きな影響を与えた、ホセ・ムヒカさんの名言とスピーチ

2012年ブラジルで開催された国連会議でのスピーチが世界的に評価され、ムヒカさんは2013年と2014年にノーベル平和賞にノミネートされています。

通常、国家元首のスピーチは1人数分程度で、制限時間を超えると切り上げるよう議長から注意されることも多いものですが、ムヒカさんのスピーチは聴衆の心を掴み、なんと約45分間、ノンストップで演説されたことで伝説のスピーチとして記憶されています。

この章では彼のスピーチやインタビューでの名言をご紹介します。

1-1.今、世界に必要な「幸福」とは何か?

ムヒカさんは、本質的な「幸せ」について次のように語ります。

「私たちはみな、ただ発展するために生まれたのではありません。私たちは幸せになるためにこの星に生まれたのです」
ホセ・ムヒカ 自由への挑戦』 マウリシオ・ラブフェッティ、鰭沼悟監修、プレジデント社、2023年、263頁より。

「幸せを犠牲にした発展などあり得ません。世界中の人々が愛を持って生き、人間関係を大切にし、子どもを愛し、友を持ち、基本を忘れないなど、人間の幸福につながるものでなければなりません」
同書、264頁より。

「質素で、シンプルで、つつましく生きれば幸せになれる」というのがムヒカさんの考え方です。このメッセージは世界的に多くの人の共感を呼び、消費主義的な資本社会における価値観の転換の1つとなりました。

1-2.本当の「貧しさ」と富について

「世界で最も貧しい大統領」と称されたムヒカさんですが、本人はこの言葉を否定し、本当の貧しさと豊かさについて次のように述べています。

「私はただ質素なだけで、貧しいわけではありません。質素。軽い荷物。最低限必要な物だけを持って。(中略)その理由は何か? もっと時間を持つためにです。自由な時間が増えれば、より自分の好きなことをすることができます。自由とは、生きるための時間を持つことです。それが、私が実践している質素の哲学なのです」
同書、52,53頁より。

彼にとっての富や財産とは、物をたくさん持つ贅沢ではありません。

本質的な豊かさとは持ち物の量ではなく、いかに「自由な時間を持つか」であると彼は定義し、「多くを必要とする人は貧しい。なぜなら多くを必要とする人は決して満たされないからである」と語っています。

物に縛られず、目の前の生活を慈しむことこそが豊かであると考え、加速度的に消費を促す現代の物質主義に問いを投げかけています。

1-3.消費社会がもたらす環境と持続可能性への問題提起

ムヒカさんは2012年のリオ会議で、消費社会がもたらす課題についてこう問いかけています。

「もし、インド人がドイツ人と同じ1世帯当たりの車を持ったら、この地球はどうなるのでしょうか?(中略)今の世界には、70億〜80億の人々が豊かな西洋社会と同じ程度の消費と浪費が可能なだけの物があるでしょうか?」
同書、276頁より。

同年、英国「ガーディアン」紙では次のように語っています。

「私は、必要なものを消費するという意味の『節度』という言葉を使いたいです。より少ない労働時間を求める人類社会を奨励し、商品の陳腐化を計算せずに、節度を保ち、長持ちする有用な物をともに作ればいいのです」
同書、281頁より。

消費と資本主義の限界を訴える彼の言葉は、世界中の人々の経済および環境への意識に大きな影響を与えました。日本でも「足るを知る」という禅の教えや、ミニマリストや断捨離といった価値観が浸透していますが、ムヒカさんも「持ちすぎない豊かさ」を度々提唱されています。

1-4.人にとっての自由と多様性とは

ムヒカさんは、自由を「生きるための時間を持つこと」と定義し、「自由な時間を持つことはどんな持ち物よりも価値がある」と語っています。

さらに、個々人が自由を実現するためには、多様性を受け入れ尊重し合う必要があることを主張しています。

「世界は、多様性を尊重してこそ成り立つ。世界とは多様なものであり、尊敬、尊厳、寛容さが求められること、大きくて強いからといって弱者を踏みにじる権利は誰にもないことを自然に理解できるようになってこそ、世界と未来は実現する」
同書、359頁より。

ゲリラ活動期に政治勢力と闘い投獄も経験したムヒカさんだからこそ、平和を願い、「多様性への寛容」がグローバルな変革を導く上でいかに重要かを伝えています。

ムヒカさん流、生き方としての質素さ

大統領就任後、彼は大統領邸を手放して郊外の田舎に小さな家を構え、妻と二人で慎ましく生活しました。

彼のこうした振る舞いの背景には、「平和と平等」を体現したい、という信念があります。具体的なエピソードをいくつかご紹介しましょう。

2-1.収入の90%を寄付

大統領時代、彼は大統領報酬の87%を各種団体に寄付していました。寄付のうち彼が最も重要視していたのは、相互扶助型・住宅建設プログラム「プラン・フントス」です。生活協同組合のような仕組みで、主にホームレスや母子家庭といった貧困に苦しむ参加者たちが、自助努力と共同作業によって自分の家を手に入れられるよう自立支援することを目的に立ち上げられました。

2-2.自らの農場で暮らす

ムヒカさんは休日、自らトラクターを運転して農作業をするのを好んでおり、自分たちで食べる野菜を小さな畑で育てています。自然の中で生きることを大事にしているため、大統領時代は職務に追われ農作業や読書の時間が持てないことを嘆くほどでした。

2-3.フォルクスワーゲン・ビートルを愛車に

ムヒカさんの愛車は水色の1987年製フォルクスワーゲン・ビートル。「カブトムシ」の愛称で親しまれています。今では国のマスコット的存在となった、3本足の愛犬マヌエラを助手席に乗せて、休日はドライブを楽しむこともあるそうです。

激動を生きた、ムヒカさんの経歴と政治活動

親しみやすい好々爺の印象が強いムヒカさんですが、若い頃は極左ゲリラ活動に身を投じ、貧しい人や社会的弱者のために武力で闘い続けてきました。計14年の過酷な投獄生活を経て、恩赦後は政治家になり人々の平和と平等のために再び闘いはじめます。

3-1.出身地と若い頃

ホセ・ムヒカさんは1935年、南米の小国ウルグアイに生まれました。

7歳で父を亡くし、幼い頃から生花の販売で家計を支えた彼は、貧富の差が激しい社会に強い疑問を抱きます。持ち前の正義感からわずか14歳で政治活動に身を投じ、労働者の賃金と労働条件の改善要求を訴えました。

1960年代、ウルグアイでは経済危機により、極左派ゲリラ「トゥパマロス」の活動が徐々に拡大。ムヒカさんもメンバーとなり武力闘争に参加、組織リーダーにまで上り詰めています

3-2.ゲリラ闘士としての投獄生活

ゲリラ活動時代には計4回の逮捕と投獄を経験。37歳の時に投獄され恩赦が与えられるまでの計14年間、身体的・精神的に残忍な拷問を受け続け、腸と腎臓に病気を患うという壮絶な経験をされています。

この経験から身を持って自由の尊さを噛み締めた彼は、投獄中にゲリラ活動から離れることを決意し、恩赦後は政治家に転身しました。

3-3.ウルグアイ大統領就任

2009年のウルグアイ大統領選挙の決選投票で、ムヒカさんは大統領就任を決めました。有権者の中にはゲリラ活動の過去への非難もあり厳しい闘いでしたが、ウルグアイの人々は彼の平等に対する信念を支持し、2009年から5年間のムヒカ政権が誕生します。

ホセ・ムヒカさんの目指した世界と具体的な政策

ムヒカさんは平和で平等な社会の実現のため、貧困問題、教育、福祉、エネルギー問題といった政策を掲げ、時には保守派や富裕層と議論を闘わせながら、各政策を推進させました。

4-1.貧困と格差の縮小

ムヒカさんは、相互扶助型・住宅建設プログラム「プラン・フントス」をはじめ、経済的・社会的な不平等を是正することを目指し施策を展開しました

貧しい家庭へ資源を配分したり、土地集中税の創設を目指したりと、所得分配を改善する政策を推進しましたが、前者は国内の保守層から強い批判を受け、後者は最高裁で違憲と判断されるなど、彼が理想とする平等社会を実現することはできませんでした。

一方で、ムヒカさんの在任中にウルグアイの失業率は歴史的な低さにまで下がり、実質賃金も上昇しました。

4-2.教育と医療の改革

ムヒカ政権では、特に経済・社会的弱者に対する教育と医療の支援活動を展開しました。人間が成長するための基盤として知識教養が重要と考えたムヒカさんは、後世に残る教育基盤の強化を目指して、大学の新設やキャンパス増設などさまざまな施策を打ち出しています

また、カトリックで禁止されている中絶を国内で合法化したことで、闇診療の中絶手術による死亡事故などの被害をなくした他、女性が単独意思で中絶を行えるようになりました。

4-3.環境保護とエネルギー政策

在任中の成果として、環境にやさしく再生可能な風力発電へ移行し、ウルグアイのエネルギープロセスを強化したことも評価を得ています。ムヒカ政権では、世界的な燃料価格の高騰を機に、風力発電システムを導入。再生可能エネルギーを販売・設置する企業や家庭への支援を強化したことで、現在では再生エネルギーだけで国内電力を供給できるほどの普及率を実現しています。

4-4.大麻合法化と犯罪抑止

大麻取引をウルグアイ政府の規制のもとで合法化し、国が消費者への大麻流通を管理するという思い切った政策を実現しました。

国内に蔓延する麻薬密売組織による治安低下や、低所得者層での麻薬中毒を問題視したムヒカさんは、あえて大麻を合法化することで密売に関わる犯罪組織の資金源を断ち一掃することを計画し合法化に踏み切りました。当初は国内で反対意見が多かったものの、この異例かつ勇敢な手法は、世界に役立つ社会実験として世界から称賛の声を集めています。

4-5.同性婚合法化による平等な結婚の実現

キリスト教では異端とされる同性婚を合法化したことは、世界でも先進的な成果として評価されています。ウルグアイでは、同性愛者カップルが結婚の権利を得るために数年間闘い続けており、2013年5月にようやくムヒカ元大統領によって同性婚を認める法律が公布されました。

国内外で割れるホセ・ムヒカさんに対する評価

ムヒカさんの政策は先進的で世界に影響を与えるものだったため、国内外から反対意見や批判の声もあがりました。

5-1.経済政策への賛否

前任者が実施した税制改革によってもたらされた大きな経済的資源があったため、ムヒカ政権ではインフラ整備による公的収入増が期待されていましたが、計画されていた鉄道事業は実現しませんでした。

また、土地集中税の採択が裁判所の命令で取りやめになり、富の再分配を実現するシステムの構築ができなかったことに対しても、ウルグアイ国民からあまり評価を得られていません。

5-2.大麻合法化に対する反対意見

2014年7月時点、大麻取引の規制のもとでの合法化に反対するウルグアイ国民の割合は64%にものぼります。多くの国民からなぜ麻薬の消費を民間に開放しなければならないのか、公序良俗に反する行為なのではないか、という声が多い中で、ムヒカさんは密売組織が治安を悪化させており、麻薬合法化は組織を撲滅させる有効な方法であるということを丁寧に説明し、改革を進めました。

関連作品

人々の自由と平等のために闘いつづけたムヒカさんの半生は、書籍化・映画化されています。以下に作品をまとめました。

6-1.本

『ホセ・ムヒカ 自由への挑戦』 マウリシオ・ラブフェッティ著、鰭沼悟監修、プレジデント社、2023年

長年ムヒカさんに密着取材し続けたジャーナリストによるルポルタージュ。ムヒカさんの栄光だけでなくゲリラ活動や投獄経験といった影の部分も描き、彼が伝えようとした「自由」の本質を問う一冊。

『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉 』佐藤美由紀著、双葉社、2015年

2012年リオ会議での伝説的なムヒカさんのスピーチを全文掲載。スピーチやインタビューから名言を選りすぐり、彼の人となりや生き方をわかりやすく解説している。

6-2.映画・ドキュメンタリー

『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』

世界三大映画祭で絶賛された名匠エミール・クストリッツァがホセ・ムヒカさんの大統領時代を追いかけたドキュメンタリー。2014年から撮影を開始し、大統領としての任期満了する感動の瞬間までをカメラに収めている。

ゼロリノベがホセ・ムヒカさんの半生を綴った翻訳本を監修。出版へ

好々爺の印象が強いムヒカさんですが、若い頃にはゲリラ戦士として武力闘争や投獄生活を経験するなど、過酷な試練を乗り越えながらも、人々の自由のためにもがき、戦い続けた人であることが分かります。

そんな彼の半生をまるごと描いた本、『ホセ・ムヒカ 自由への挑戦』をゼロリノベが監修・出版します。

この本は著者であるジャーナリストが、ムヒカさんの挫折や失敗、国内外の評価といった側面も含めて彼の生き様に迫ったルポルタージュです。

ムヒカさんは「自由な時間は、どんな持ち物よりも価値がある」と定義しています。ゼロリノベもまた、「大人を自由にする住まい」をコンセプトとし、未来の選択肢や可能性が拡がる、自由で豊かな時間が生まれる住まいを提案しています。

ムヒカさんを多面的に描いたこの本には、現代社会に生きる私たちが自由な生き方に気づくため、本質的な幸せを見つめ直すヒントがたくさん散りばめられています。

なぜ日本の民間企業であるゼロリノベがムヒカさんの書籍を監修、出版したのか、詳しい経緯はこちらの代表インタビューでご紹介しています。ぜひご覧ください。

<書籍内容>

“世界で最も貧しい大統領”と世界中の人々から親しまれている元ウルグアイ大統領、ホセ・ムヒカ氏。柔和な好々爺の印象が強いが、彼に長年密着したウルグアイのジャーナリストが栄光だけでなく、その裏にある影も丹念に描いたルポルタージュ。ゲリラ活動から14年に渡る獄中生活、大統領時代、そして国会議員を辞した今もなお訴え続ける「自由の尊さ」とは? ムヒカ氏が体現する “世界で最も心豊かな生き方” とは? 自分にとって、本当に大切なものは何かを考えさせられる一冊。

タイトル:ホセ・ムヒカ 自由への挑戦
著者:マウリシオ・ラブフェッティ
監修:鰭沼 悟
発行:株式会社プレジデント社
発売日:2023年4月28日
予価:1800円+税
購入URL:https://amzn.asia/d/5HOEWIg

この記事の執筆
  • 小野笑

    ゼロリノベの広報担当。大規模公園で企画広報に従事した後、お客様目線に立った考え方やサービス内容に惹かれるとともに、自由=自立という考え方に共感して入社を決意。これまで数えきれない程の事例取材を担当してきた経験から、お施主さまや...

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