遊びは全力で。住まいは柔軟に。だから今は二拠点生活 [自由に住みたい大人たち Vol.1]
住まいや暮らしに求める自由の形は人それぞれ。イラストやファッションブランドのアートディレクションなど、幅広くクリエイティブな活動をしているジェリー鵜飼さんが見つけた “自由” とは?
PROFILE ● ジェリー鵜飼
アートディレクション、グラフィックデザイン、イラストなど、クリエイティブ活動は多岐に渡る。数々のCDジャケット、アウトドアブランドのロゴ、広告を手掛けるかたわら、展覧会、執筆活動も行う。現在、東京と八ヶ岳の家を行き来する二拠点生活を送っている。妻と8歳の長女の3人暮らし
NO NATURE, NO LIFE
見上げれば、まるで『トム・ソーヤーの冒険』に出てくるツリーハウス。鬱蒼と茂る樹々の間から、ひょっこり顔をのぞかせる木造住宅がジェリー鵜飼さんの自宅だ。「子どもが生まれるタイミングで家探しを始めて、買いたい家が見つからなかったから、とりあえずここを借りたの。だって、こんな面白い物件、なかなかないよね」。四方を緑で囲まれた約100坪の敷地。急斜面の上から宙に迫り出すような佇まい。しかもそれが東京にあるなんて。
「家に求めるいちばんの条件は土と緑。自然を見て楽しむだけでなく、ガーデニングや木の手入れもしたいの。自然との付き合いは、ヒーリングであり、メディテーションでもあるんだ。緑豊かな環境のほうがいい絵を描けるしね」
自宅で仕事をしているジェリーさん。ワークライフバランスについて訊ねると「遊びが忙しくて、仕事ができない」と真顔を向けた。「家で仕事をしていると、パパ遊ぼ〜って娘が来るから遊ぶでしょ。ご飯食べて、本を読んで。朝晩犬の散歩もするし、駅が遠いから子どもの学校帰りは迎えに行く。日中は釣りと登山がしたいしね。遊びが忙しいから、仕事をあんまりしないで暮らしていけるように、仕事は人の何倍も集中する。30年やって、ようやく短時間でいいものをつくれるようになったんだ」
クリアになった自由と不自由
それにしても、約60m²に居室が寝室とLDKのみ。3人家族の職場兼住居としてはかなりミニマルだ。そこに通底するのが、必要最小限の軽装備で挑む登山スタイル『ウルトラライト(UL) 』だった。「2000年代からそのムーブメントが起きて、思想のような形でライフスタイルにまで派生していったんだ。当時、僕はウルトラライトの考えに強く共感して登山仲間と実践するように。自分も自然の一部だと感じるために山登りしているのに、重装備で自然を感じられなくなったら意味がない。実は不要な物をたくさん抱えていないか、徹底的に見直すようになったんだ」
一人暮らしをしていた38歳の時、引っ越しを機に断捨離を決行したジェリーさん。「僕は極度の片付け下手で物をよく失くす。それがストレスだったの」。生活用品や衣類は数えるほどに。仕事の資料も道具もほとんど手放し、ひと握りの文具とノートパソコン一つでできるようにした。「そうしたら、全く散らからないし、失くさない。もうスッキリしたの! 空間だけでなく、気持ちもね」
「持っていないほうが贅沢」なのだとジェリーさん。「持っていると、物に支配され、行動が制限される。レコードも3000枚以上あったけれど、置く場所を考えないといけないでしょ。物を抱えることは不自由だったの。手放してみたら自由を得られたんだ」
空間も物も心も軽やかなULの暮らしは、家族を持っても変わらない。「家では子どもと遊んで、ご飯を食べて、絵を描いて、寝るだけ。物は見れば欲しくなるけど、結局、キリがない」。今でも物の必要性を考える時、こんな問いを立てる。 “広さ4畳半の家に家族で住むなら、何を持っていくか” 。「僕も30代はこだわりが強くて、カッコいいビジュアルに興味があった。だけど、高い物をたくさん所有しても幸せなのは買った瞬間だけ。そのうち飽きて長い幸せにはつながらない。その点、自然は飽きないよ」
小さい家だからかなう二拠点生活
4年前、いつでも登山ができる環境を求めて八ヶ岳にアトリエ兼別荘を購入。長女の通学圏が変わらないよう平日は東京で過ごし、金曜の午後から八ヶ岳へ行くデュアルライフが始まった。「延床面積約60m²の中古一戸建ては、土地込みで300万円と格安だったから、リノベに700万円かけられた。実は31歳で中古一戸建てをフルリノベした経験があって、その時にお金をかけなくても中古物件でもいいものがつくれるとわかったの。それが『センスを発揮する』ことだって」
初めてリノベした2階建ての家も延床面積60㎡台。小さく住むことに興味が湧き、吉村順三や中村好文など、日本建築界の巨匠が建てた狭小住宅を調べては魅了された。 そこから、送電網を使わず自家発電だけで電気をまかなう暮らし方へと興味が広がる。「すぐには実現できないけれど、なるべく電気を使わない生活がしたい」とジェリーさん。だから八ヶ岳の家は電化製品がドライヤーと照明だけ。洗濯は手洗いとコインランドリー併用。もちろん冷蔵庫もない。「不便なのって楽しいよ。クーラーボックスで持参した食材だけで2日間の料理をどう回すか、作戦を考えないといけないから」
いつでも柔軟に選択できる暮らし方
「今も物件チェックは継続中。そのうち娘が3人一緒の寝室はイヤ、パパと寝たくないって言い始めたら東京の家を引っ越すか。あるいは高校卒業までだからみんなでやりくりしよう、ってなるか。はたまた娘が巣立って八ヶ岳を本拠地にしようという時に、妻が『やっぱり東京がいい』と言わないとも限らない。僕はアトリエ近くで広い土地を買って大々的にガーデニングしたくても、家族がどう思うか、先のことはわからないよね。だから、その時々で柔軟に動ける暮らしの自由を大切にしていたいんだ」
先はわからないが、買うなら中古物件を買ってリノベと決めている。「建売は床や壁や間取りが気に入らなかったら、新しい物を壊すのがバカバカしい。注文住宅は高過ぎる。35年フルローンなんて、長期間お金に縛られるのは不自由だよね。その点、リノベは安くて好きな家にできるからホントにいいの」
お金や物に頼らない豊かさ
「住まいの自由度でいうと、今は100点満点中50点。でも、それもまた面白い。満点を目指す目標ができるから。人生は60代からがホンちゃん。30〜40代は幼虫、50代がサナギ、60〜70代で成虫だから、そこでどれだけ楽しいか! だと思ってる」。サナギになったばかりのジェリーさんは、ガーデニングや登山を思う存分できる環境を目指して一糸一糸繭づくり。羽を広げる頃には、物、お金、空間、時間だけでなく、送電網からも自由になれる日が来るかもしれない。
「やりたいのは、自分だけのストイックな世界をつくるとか、世捨て人になるとかいうことではないの。お金や物に頼らない豊かな暮らしを少しでも実践して、身近な人に提案できたらいいなって思うんだ。こういう幸せや自由の形もあるよ、それもシティーボーイのままでセンスよく暮らせるんだよ、ってね」
構成・取材・文/樋口由香里 撮影/吉田 真
※八ヶ岳の家は全てジェリー鵜飼さん撮影
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