わが家は永遠にクリエイトできる未完のアトリエ [自由に住みたい大人たち Vol.4 板井亜沙美さん]

住まいや暮らしに求める自由の形は人それぞれ。仕事のみならず、住空間のクリエイトにも興味が尽きないグラフィックデザイナーの板井亜沙美さんが見つけた “自由” とは?
PROFILE ● 板井亜沙美
グラフィックデザイナー。雑誌や広告などを中心にデザインを手がける。数年かけて中古マンションを探し、都内で2LDKの分譲マンションを購入。夫と5歳の長女と3人暮らし
人の暮らしを自分に打ち返すのが楽しくて
見せ場はLDKに限らない。廊下にも何気ないコーナーにも、家の至るところに物が飾られている。そのどれもが愛嬌たっぷりで、笑顔を振りまいたり、照れくさそうに佇んでいたりと個性的。「アノニマス(作者不明)の民芸品に心引かれます」と話す家主の板井亜沙美さんは、グラフィックデザイナーだ。職業を通して、住まいに無限の興味が湧き出る自分を自覚したのだそう。
「デザインするのは平面ですが、使用する写真の絵づくりでは空間のスタイリングについても話し合うので、意外と立体のこともクロスさせて考える仕事です。絵づくりの中でも、子ども部屋など家のシーンを考える企画は、本当に楽しくて。自分は暮らしや空間を考えるのが好きなんだなぁという気付きがありました」

義理の弟夫妻が北海道の森に家を建て、薪割りをして暖を取る暮らしにも刺激を受けた。「私とは全く違うライフスタイルですが、そこが彼らにとって全集中で作り上げた宝物であること、自由な暮らし方であることが感じられる場所でした。家って、自分にとっても家族にとってもすべてのベースになるもの。それを大切にしている人の姿や暮らしぶりを見るのが好きだし、話を聞いて自分に打ち返し、自分ならどうするかと思いを馳せるのも好きなんです」

住み継ぐ楽しさを教えてくれた中古物件
40㎡の賃貸住まいが手狭になり、新居購入に向けて “自分なら” と思考のラリーを重ねた板井さん。平屋感覚で住める広い家が理想だが、戸建ては予算が合わないため、中古マンションを買ってリノベーションすることに。「ところが、探してみるとリフォーム済み物件が多いんです。その分が価格に転嫁されているし、自分のイメージとも違うテイスト。かといって新品の設備や内装を壊してつくり直すことにも抵抗がありました。一方で、既存のままの物件だと居住者の方の個性が強く、自分が住んだ時のイメージをつかみにくくて」

物件探しが難航する中、周辺環境の下見から内見まで含め、チェックした数、30件超。粘った末に「こんなにピンと来たものはなかった」と目を輝かせたのが今の住まいだ。見晴らしの良さ。駅近で夫の通勤にも便利な立地。築40年近い物件だが、新耐震基準に改修済みの証明書も確認できた。価格は大幅な予算オーバーでも、間取りを大きく変更せずに住めると判断。リノベ予算を物件予算に回し、トータルで納得できる金額に抑えた。
購入前、売主である居住者と話せたのも良かったことの一つ。「ここは前の前の居住者の方が3LDKを2LDKに変更し、その次の居住者の方が水まわりを交換されたもの。売主の方がその状態を大事にしながら住まわれていました。水まわりも間取りも内装も好感がもてて、小さなリノベとDIYで工夫すれば住みやすそうだなと。既存で活かせるものをなるべく活かしたかったので、それも叶う家でした」


空間の自由度が上がると幸福度も上がる
実は、夫には「賃貸でもいいよ」と言われていたそう。「でも私にとっては、自分の自由にできる空間を所有しているほうが、幸福度が高くなると感じていました。賃貸や面積といった制約がある中で工夫するのも嫌いではありません。でも所有すれば、変えられる自由度が高くなります。動線はこうしたほうが良さそう、ここに収納があると便利かもと、自分はどう過ごしたいのかをより深く考えられるのもいい。ライフスタイルの解像度が上がると思いました」


常日頃から空間に自分の思いを打ち返し、思考のラリーを重ねていく。そのプロセス自体が、楽しくてたまらないようだ。以前の倍に当たる約80㎡の広さにも、自由度の高さを実感している。「これだけあれば、大人の書斎でも子どものプレイスペースでも、いかようにも間取りをカスタマイズできます。いつでも好きに変えられる自由があることは、ポジティブに光り続ける希望です。どんな想像をしてもいいこと自体、とても幸せで自由を感じます」



物の視点と所有する責任を胸に空間をデザイン
住み始めて、思いが爆発したと笑う板井さん。「この自由度がなければ、ここまで積極的に想像したり、つくり込んだりしなかったと思います」。オブジェから造作ベンチ、収納家具に至るまで、彼女がデザインし、父が制作した物がどこにいても視界に入る。趣味の域を超えた親子の合作もまた、民芸コレクションと相性のいいアノニマス。小さな置き物から大型家具まで、さまざまな出自の物たちが、まるで大家族のように暮らしを見守る。

「古い物は、どういう変遷でここに来たのか考えるのが楽しくて、蚤の市には毎年行きます。ただ最近になって、物を長く所有していく責任を感じ始めました。100年前につくられた物をたまたま自分が持っているなら、ちゃんと大切にしなければと。物の視点に立てば、しまい込むより愛でられるように飾ったほうがいい。そのためには置く場所をシンプルにして物を引き立たせようとか、空間も物も人も全体が心地良くなるように足し引きを考えてデザインするようになりました」


思考実験のループが暮らしをアップデートしていく
物づくりをするのが好きな彼女にとって、グラフィックデザイナーは天職だ。そのクリエイティブ欲をわが家でいかんなく発揮している。「仕事はクライアントがいるけれど、この家では自分がクライアント。どこまでも思うままにしていいし、何度でも変更できる。常に何かをつくり続けていたいから未完でいいんです。永遠にアップデートしていけるこの箱の楽しさといったら!」


家具もほとんどが “アップデート” の一環として造作したもの。「入居時のリノベをミニマムにしたからこそ、住んでみて本当に必要な物をイメージできました。足りない物や不便なことを発見して、どんなビジュアルでどう解決するか考える。デザインしたら父に作ってもらって、しっくりこなければ作り直してもらって(笑)。家全体が施工実験をするアトリエのようなもの。そんな空間をもてたことが最高の自由です」


大きなリノベをしなかったからこそ、いつか間取りを変えるようなリノベもしたいと話す。夢物語ではなく、いつでも実現できるものとして、板井さんは今日も家族の未来をデザインしている。

構成・取材・文/樋口由香里 撮影/橋本裕貴
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