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既成概念から抜け出して “個対応” のライフスタイルへ [自由に住みたい大人たち Vol.5 有賀 薫さん]

中古リノベーションをしたキッチン

住まいや暮らしに求める自由の形は人それぞれ。忙しい現代人のためのシンプルレシピを提案している、スープ作家・有賀 薫さんが見つけた “自由” とは?

PROFILE●有賀 薫

毎日違うスープをつくって撮影した写真をSNSで発信し、注目されたのをきっかけに、2016年スープ作家としてデビュー。素材を活かしたシンプルスープを紹介している。1999年に新築で購入し、2019年に自宅をリノベーション。現在、夫と2人暮らし。近著『スープが作れたら、自炊は半分できたようなもの』(オレンジページ刊)など、著書多数

目次

ライフスタイルの実験から始まったリノベ計画

「お料理の撮影ではよく、鍋の中を混ぜているシーンを撮りたいって言われます。でも、焦げ付きを防ぐ時でない限り、混ぜないほうがいいんですよ。スープが濁っちゃうから」。その例に漏れず困ったオーダーをしてしまった取材班を、笑顔で諭してくれたのはスープ作家の有賀 薫さん。自宅で料理の撮影をすることが多く、使いやすいキッチンにリノベーションすることを決めたそう。すると、一つの疑問がわいてきた。

「料理は、料理単体ではなく暮らしの中にある。そのメッセージをスープに込めてきましたが、『では、私の暮らしはどうなの?』という問いが返ってきたんですよね」

リノベーションした住宅のインテリア

自分の暮らしを見つめ直した時、脳裏に浮かんだのはキッチンに立つことが苦になっている人たちのこと。世の中には料理が苦手な人や、楽しめずに業務としてこなしている人が大勢いると、料理家になって思い知った。「でもみなさん、栄養バランスや家族の体調が気になるから頑張っている。その負担を少しでもラクにしてあげたくて、ホッとできて栄養も取れるスープを提案してきました。だから、自宅をリノベーションするなら、この考えを反映させた “新しいごはん装置” をつくってみたい。そんな方々の参考になる一つのライフスタイルを提案してみたい。そう思ったんです」

リノベーションした住宅のキッチン

家の中に家庭科の調理室!?

折しも子どもが巣立って夫婦ふたり暮らしになった有賀さん。これからのキッチンと食のあり方に、自身の暮らしとやりたいことを重ねていった。忙しい現代人には、料理を効率的にした “広げすぎない食事” があってもいい。肉や野菜がたっぷりのスープにごはんかパンが添えられているだけでも十分ではないか。出来合いのものだけだと味気ないけれど、手作りのものが一品でも食卓にあればホッとする、活気が出る、栄養を取れる、集いも生まれる――。

リノベーションした住宅のキッチン

思いをめぐらせながら、自宅の奥まった場所にあるキッチンを見てひらめいた。「食をキッチンに閉じ込めるのではなく、リビングに飛び出させてはどうだろう? 家庭科の調理室のように、つくるのも食べるのも片付けもみんなでできる。そんなコンパクトキッチンを実験的に家でできないだろうか」

リノベーションしたキッチン
2人で作業しにくい既存のセミクローズドキッチンは、リノベ後もそのまま活かし、サブキッチンとして使用することに

「夫に話すと、最初は反対されました。テレビやソファがあるリビングと、匂いや音のするキッチンが近づくことに、抵抗感があったようです。そこで、コンセプトワークとしての “新しいごはん装置”を試してみたいこと、それが自分たちの暮らしにも合っているだろうことを説明したら理解してくれて、今度は夫のほうから、じゃあリビング続きの和室を取り込んでLDKを広げるといいかもね、家全体でレイアウトを考え直してみようか、と提案してくれました」

リノベーションした住宅のリビング
元和室をリビングにしたことでキッチンとの間に空間の「余白」と距離ができ、緩やかな空間分離に成功。使い勝手の自由度も上がった
リノベーションした住宅のリビング
元和室の障子を活かしたジャパニーズモダンのリビング。床座で画集を眺めたり、ティーブレイクしたりするのがいつものスタイル
リノベーションした住宅の飾り棚
キッチン背面は「スープ作家であることやその仕事の温かさがひと目でわかるように」という夫の提案でオープン棚に

既成概念にないキッチンをつくりたい

依頼したのは、話を聞いてすぐ『一からプロダクトをつくろうとしているのですね』と理解してくれた設計事務所。夫も積極的に参加して打ち合わせを重ねるように。しかし、そこからが難所だった。「既成概念にないキッチンを形にしてもらうまでが大変でした。最初のプラン提案で出てきたのは大きな壁付けキッチン。快適性はもちろん、料理家にふさわしいキッチンやダイニングを追求するといった、設計のプロだからこその心配りが邪魔をしていたようです」

リノベーションした住宅のキッチン(ミングル)
新しいキッチンのコンセプトと足入れの深さなど設計士視点の機能性をすり合わせていった。95㎝四方の天板は数人で囲むなら十分な広さ

イメージを共有するために設計士を食事に招待。当時使っていたダイニングテーブルにテープを貼って、「このスペースだけでも3人で十分食事をできますよね?」とサイズ感を説明。夫も「囲炉裏やキャンプの火のように、みんなが暖かさのまわりに集まるアイランドキッチンにしたい」と使い方を表現。設計士も徐々に従来のサイズや機能に対する固定観念から解放されていく。3人の目線が揃い、暮らしに基づく新しい型が湯気の向こうに見えてきた。 

設計士の提案で、プロダクト名は英語で「混ぜる」を意味する “ミングル” と命名。「みんなでぐるっと囲んでつくる・食べる・片付けられるライフスタイル、というコンセプトにぴったりでした」

リノベーションした住宅のキッチン(ミングル)
1口コンロはどの席からも等しく手が届く天板中央に。「レンジやトースターなどのキッチン家電を併用すれば、コンロが1口でも品数を増やせます」
リノベーションした住宅のキッチン
水道も設け、まな板や野菜をその場で洗える。「一つの “食べごと”の流れとして、最後までみんなで一緒に楽しめます」

ゼロから始めて “心地いい” のゴールへ

暮らしの真ん中にミングルを据えたリノベーション。それは、使い慣れた鍋の中から新しい料理が生まれた瞬間だった。味わってみれば、作業効率の良さに加え、準備から片付けまで夫もゲストもみんなで “食” を楽しめるレイアウト。以前は「与えられた型」の使いにくさに気付いていなかったことも自覚した。自分でつくった動線がどれほどラクか。それが気持ちをいかに変えるか。「ものすごく驚きましたね。家は、これほどまでに自分で選んで自由にできる。そのこと自体が感動的でした」

リノベーションした住宅のキッチン
料理中、食器や調味料が必要な時にすぐ手が届くレイアウト。天板下の食器洗い乾燥機から器を片付けるのも振り向くだけ

「以前、化粧品メーカーの方に、一番いいスキンケア商品は価格やブランドではなく、使う人の肌質や肌年齢に合う機能があるものだと伺いました。それを “個対応” と呼んでいて、料理も同じだ!と。食べる人の好みに添ったものを選ぶことが大事だから。そして、暮らしもまさに個対応でしたね。機能に惑わされず、自分にとって余計なものを削ぎ落とす。使い心地がいいのは、ゼロからスタートさせた結果です」

リノベーションしたキッチン(ミングル)
ミングルの天板にカトラリーやテーブルウェアを入れる引き出しを内臓。夫の席には、ホーロー容器に入れた夫用のコーヒーシュガーも

考えるより、五感を研ぎ澄ませる

では、自分にとっての個対応をどう見つけたらいいのだろう。「感じること、かな。なんでもスマホで済ませていると感覚が遮断されて、自分の好みがわからなくなってしまいがち。絵画展でも生演奏でも手でこねる肉団子でもいいから、リアルを見て、聞いて、肌で感じて。スープをつくるときも、必ず味を見て、と言っています。誰かが決めたおいしさを受け取るのではなく、自分の心地いいおいしさがあるはずで、そこに合わせてほしいんです。外食やお惣菜が続くと舌が疲れてくるのは、自分がその味に合わせにいくからです」

リノベーションしたキッチンのインテリア
有賀さんのレシピは素材の滋味を感じるものが多い。同じ白菜でも日に当てるだけで旨みが増し、少しの塩味で舌が喜ぶ味わいに

与えられるものは新鮮だけれど、なじみの良さを忘れてはいけない。「私はミングルという1つの選択肢を差し出すことで、みんなにそれぞれ自分の生活に合わせた自由なキッチンを見つけてほしいと願っています。私自身、自分で一つひとつ選んでリノベしたことで、すごく自由になったから。空間にゆとりが生まれ、動きや使い方も豊かになった。暮らしながら、住まいが体により添う心地よさを感じています」

  “今、心地よく暮らせてる?” 。これからは澄んだスープをつくるとき、彼女のように五感を使って自分の胸に問うてみたい。

リノベーションしたキッチンのインテリア

構成・取材・文/樋口由香里 撮影/水谷綾子

 

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