人好き・リノベ好きの設計集団がつくる クリエイティブの好循環|設計のプロに聞いた ゼロリノベのここがユニーク vol.3

住まい手自身が気づいていない “真なる要望” を探り当て、その人の個性が光るプランニングを得意とするゼロリノベ。そのオリジナリティはどのようにして生まれるのか。設計・施工責任者である西村一宏に、プランの提案力について聞きました
ー語り手ー
取締役/一級建築士
西村一宏
常識にとらわれないプランニング
間取りをそれほど変更しないリノベーション会社が多い中、うちはわりと大胆なこともしています。創業当初から「こんなのやっちゃう?」みたいなプランを実現させた事例が多いんですよね。例えば、ただリビングを広げるだけでなく、回遊性をもたせて心理的な広がりもつくったり、家事ラク動線や通気性を考えて間取りを変えたり。反対に「この部屋、そもそも必要?」とゼロベースで見直すことも。
以前、「寺のような空間にしたいから、土間を広く取りたい」というお客様がいらしたので、担当の設計スタッフがそこを徹底的にデザインに落とし込んでみたんです。悩んだ末に、部屋の3分の1が土間になる思い切ったプランを提案したところ、「おもしろい!」と喜んでもらえて実現しました。
間取りの正解は、家族構成によっても暮らし方によっても違うもの。今は良くても、10年後、20年後には変わってしまうこともあるでしょう。だから常に意識しているのは、長期視点の設計。完成後がピークではなく、少しずつ育てていけるように。そんな思いで空間に余白を残した可変性のあるプランは、うちの得意分野です。

100%お客様の方を向いていたい
営業と設計を兼ねた会社もありますが、うちは営業が別部門。その分、設計部のメンバーは純粋に設計と向き合えて、100%お客様の方を向いていられます。管理職サイドも理解があって、設計者の発想にブレーキをかけないようにしています。だから設計部には、最低限守らなければいけないルールはありますが、一人ひとりが独自性やクリエイティビティを発揮できる職場です。
みんな伸び伸び仕事しているので自然とキャラクターの個性が出ています。チーム全員で知恵を出し合って、いい化学反応が起こることもたびたび。どうしたらお客様の満足度を高められるかというところに集中できるので、設計側の提案力とお客様のオリジナリティを反映した住まいが生まれる。必然的に事例のバリエーションが他社に比べて豊富になる。いい循環のある環境です。受賞歴が多いリノベ会社って、そんなにないのですが、ゼロリノベが毎年、大きな賞をいただいているのは、こんな背景があるからかもしれません。

リノベーションの答えは
お客様の言葉の中にある
今は、物件や資材が高騰していることもあり、手間をかけず、作業効率を上げて、ある程度型が決まったリノベに留める会社が増えています。それなら設計者の力量に左右されません。だからゼロリノベみたいに自由設計をとことんしているところは少ないと思いますよ。
では、何か特別なことをしているかというと、そんなことはないんです。ただ、 一つひとつのプロセスを丁寧に重ねていく普通は面倒だと思うところにもきちんと目を向けて取り組む。だからこそ、時間がかかることもありますし、図面の量も自然と増えていきます。でもそれは、「ちゃんとつくりたい」という気持ちが根底にあるからこそなんです。
思い切り設計と向き合える環境だからか、集まってきたのはリノベ好きな職人気質の人ばかり。誰もが「いいものを作ろう」という感じです。そのためには、お客様が気づいていない「コレが好き」や「実はこうしたかった」を探る必要があるので、お客様にじっくりヒアリングする時間をとっています。リノベの答えはすべてお客様の言葉の中にある。本質的な要望を丁寧に引き出して、反映させたプランを提案しています。

手間がかかっても安心予算を守り切る
どんなに手間をかけても「安心予算」は常に意識しています。この先の自由な暮らしを支えるために、守るべき枠だから。それを越えて工事費を取ると怒られますが、そんな考え方の会社、他にないですよね(笑)。ただ、設計者としては、予算内で収めながらも要望をかなえるために、ものすごく知恵を絞ります。デザイン性のいい既製品を減額案として提案したり。照明やエアコンは、こちらで発注するより安く買えるので施主支給を勧めたり。そんな時でも、セレクト案を出すのと取り付けはちゃんとこちらで行います。
予算的に全ての要望をかなえられないことが多いので、お客様のこだわりの優先順位をつけて、どういう引き算をするといいか提案していくんです。全体的に少しずつ見直すのか、本丸を違うアイテムに変えるのか。仕様と予算にメリハリを出すサポートをした上で、「やっぱりココが大事!」というところをリッチに設計する。そんな緩急も大切にしています。

目に見えない機能性までこだわりぬく
リノベーションって「オシャレ」や「カッコいい」がフォーカスされがちですが、ゼロリノベではそれが当たり前。むしろ、その上で取り組むべき大きな課題が、日々のプチストレスをいかに解消できるかです。
コンセントの位置1つとっても数センチ単位で確認するし、通路幅をどうするといいかも丁寧に説明します。寝室ならセオリー通りの広さにするのではなく、その人が心地いいと感じるベッドの配置まで確認してから広さを提案。デザインだけでなく、機能も緻密に計算し、暮らしの中の “小さな不快”を90%くらいまで解消できるように心がけているんです。使い勝手のディテールを積み重ねていくことで、新しい住まいの心地よさにつながると思っています。

うちのメンバーはみんな、リノベと同じぐらいに人が好き。資金計画から物件探し、設計、施工、アフターサービスとオールインワンのサービスの中では、設計部がいちばんお客様と長いお付き合いをしています。その期間中、家族の一員のような気持ちで新しい住まいを想像していくのが楽しくて仕方ないんですよね。
だからリノベ後に「家にいる時間が長くなりました」とか「コーヒーを豆から挽くようになりました」と報告をいただくと、自分のことのようにうれしい。住むほどにより良くなる家を目指している者として、暮らしに愛着が湧いていることを知るのは設計者冥利に尽きますね。