名建築リノベーション事例から学ぶ|自宅リノベにも活かせるデザインのヒント

都市にも地方にも、長い時間を経た名建築をリノベーションによって再生させた空間が増えています。
旧銀行や洋館、倉庫、町屋など、建物が持つ“物語”をそのままに、新たなデザインや機能を加えて息を吹き返した場所は、ホテル・カフェ・商業施設として高い人気を集めています。
こうした名建築リノベは、単に「古い建物を手直ししただけ」ではありません。意匠、素材、佇まいなど、その建物特有の魅力を最大限に引き出しながら、現代のライフスタイルに合わせて再編集した空間づくりです。
今回は、そんな“名建築をリノベした空間”の魅力をひも解きながら、自宅リノベーションでも取り入れられるデザインのヒントをご紹介します。
名建築リノベとは?
名建築リノベとは、歴史的・文化的な価値をもつ建物を、現代の用途に合わせて再編集し、新たな命を吹き込むリノベーションのことを指します。単なる修繕や表層のアップデートではなく、建物そのものが持つ個性・素材・空気感を残すことが前提となります。
重厚な外観や細部の意匠、当時の職人によって生み出された素材の質感など、名建築には時間を経ることでしか得られない美しさが宿っています。その魅力を失わないよう配慮しつつ、現代の生活やビジネスに必要な機能性・快適性を加えていく、それが名建築リノベの本質です。
名建築リノベが注目される背景
近年こうしたリノベーションが注目されている背景には、都市再生や既存建築の価値の見直しが進んでいることが挙げられます。新築では再現が難しい重厚な素材や、当時の文化を反映した意匠を未来へつなぐため、“壊す”のではなく“活かす”という選択が多くの地域で支持されるようになりました。
また、訪れる人々にとっては、古い建築の魅力と新しいデザインが融合した空間体験が、特別な場所として強く記憶に残る点も大きな魅力です。
リノベ後に生まれる価値
リノベーション後の空間では、用途変更によって新しい価値が生まれます。例えば古い銀行がホテルへ、蔵がカフェへと生まれ変わり、建物の歴史はそのままに、現代的なライフスタイルに寄り添う場所へと進化していきます。古いものと新しいものが調和することで、空間には独自の緊張感と温かさが生まれ、他にはない空気感をつくり出します。
名建築リノベは“過去の再現”ではなく“時間を重ねるための再設計”ともいえます。建物が持つ記憶を尊重しながら、これからの使い手に合わせて価値を更新していく。そんな柔軟で創造的な姿勢が、多くの人の心を惹きつけています。
自宅リノベの参考にも!全国の名建築リノベ5選
日本各地には、歴史的建築を現代の用途やデザインに再生した名建築リノベが数多く存在します。古い銀行や町家、洋館や工場など、それぞれの建物が持つ独自の魅力や素材感を活かしつつ、宿泊施設やカフェ、ホテル、サロンとして新たな価値を生み出しています。
ここでは、自宅リノベにも応用できるデザインのヒントが詰まった全国の注目事例をご紹介します。
1、【東京・日本橋】K5




「K5」は、1923年築の旧銀行建築をリノベーションして生まれた、東京・日本橋兜町のマイクロ複合施設です。外観や躯体といった歴史的要素を残しながら、ホテル・飲食・バーなど多彩な機能をひとつにまとめ、“泊まる・食べる・集う”を同じ建物で楽しめる空間に再生。
北欧のデザインユニット CKR が手がける内装は、和の美意識との調和が特徴で、コンクリートの質感と豊かな植栽が都会の中での静かな時間を演出します。兜町の再活性化を象徴するランドマークとしても注目されています。
熊田K5の魅力は、歴史ある素材をあえて残す“新旧の対比”と、北欧×和の調和、豊かな植栽使い。
自宅でも、躯体の質感を活かした仕上げや自然素材・落ち着いた色使いを組み合わせることで、時代に左右されないタイムレスな空間をつくるヒントになります。
施設情報
| 施設名 | K5 |
| 住所 | 103-0026 東京都中央区日本橋兜町3-5 |
| HP | https://k5-tokyo.com/ |
2、【北海道・函館】HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELS








HakoBA 函館は、函館のベイエリアにあるリノベーションホテルです。かつて銀行や美術館として使われていた歴史ある建物を再生し、全58室の客室やラウンジ、ルーフトップテラスなど多様な宿泊空間を備えています。
建物のオリジナルの柱や梁、赤レンガの外観を活かしつつ、現代的な快適さをプラス。地元アートや装飾を取り入れ、函館の街並みや港の景色と調和した滞在体験が楽しめる施設です。



歴史的な建物の特徴を残しつつ、用途やライフスタイルに合わせて空間を再構築する手法が参考に。
オリジナルの柱や梁、床材を見せながら、現代的な家具やアートを組み合わせることで、自宅でも趣ある空間と快適性を両立できます。
施設情報
| 施設名 | HakoBA 函館 by THE SHARE HOTELS |
| 住所 | 〒040-0053 北海道函館市末広町23-9 |
| HP | https://www.thesharehotels.com/hakoba/ |
3、【京都・祇園】そわか(SOWAKA)








京都・祇園八坂にある「そわか(SOWAKA)」は、100年以上の歴史を持つ元料亭の数寄屋建築をリノベーションしたスモールラグジュアリーホテルです。伝統的な襖や漆塗りの壁、欄間などの職人技を活かしつつ、現代的な快適さを融合。全23室の客室は和洋折衷や半露天風呂付きなど多彩で、庭園や屋上ラウンジ、和のライブラリーなど共用空間も充実しています。
祇園花見小路や八坂神社に近く、京都らしい情緒を感じながら滞在できるホテルです。



床の間や欄間、格天井、伝統的な木組みなど、数寄屋建築のディテールを活かすことで、和の趣を損なわずに現代的快適性と融合させています。
自宅リノベでも、和室やリビングの一部に伝統的意匠を部分的に取り入れたり、素材や色味を意識することで、和モダンな空間を作ることが可能です。
個室ごとのデザインの違いを楽しむ設計も、暮らしに変化と豊かさをもたらします。
施設情報
| 施設名 | そわか(SOWAKA) |
| 住所 | 〒605-0821 京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル清井町480 |
| HP | https://sowaka.com/ |
4、【愛媛・大洲】NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町








NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町は、愛媛・大洲の歴史的な商家や邸宅を再生した“分散型ホテル”です。町に点在する古民家を丁寧に改修し、梁や土壁、格子など当時の意匠を残しながら、現代の設備を違和感なく組み込んだ上質な宿泊空間を提供します。
滞在そのものが城下町の歴史や文化に触れる体験となり、地元の工芸や食文化と連動した設えも特徴。大洲城の城下を歩きながら、そのまま暮らすように泊まれる地域密着型のホテルです。



古民家や町家の梁、土壁、建具などの素材感を残しつつ、水回りやベッドなど現代的機能を取り入れています。
古い家の魅力を活かすなら、梁・柱・土壁など“味のある素材”を残しつつ、配管や空調など現代設備は目立たないように仕込むのがポイント。古材の修復や自然素材の活用で、歴史ある雰囲気を保ちながら快適性も両立できます。
施設情報
| 施設名 | NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町 |
| 住所 | 〒795-0012 愛媛県大洲市大洲378 |
| HP | https://www.ozucastle.com/stay |
5、【東京・丸の内】Café 1894(三菱一号館美術館内)








Café 1894は、三菱一号館美術館の1階にあるミュージアムカフェ・バーで、明治期に建てられた旧銀行営業室を忠実に復元したクラシカルな空間が特徴です。二層吹き抜けの開放的なホール、細部まで再現された柱頭装飾や木製格天井、歴史的ガラスを使った窓など、建築の魅力をそのまま体験できるのが魅力。
美術館利用者以外でも気軽に利用でき、ランチからバータイムまで幅広いシーンで楽しめる、丸の内の文化拠点的カフェです。



木の梁や装飾、ガス灯風照明など歴史的要素を活かし、銀行営業室の空気感を残しながらカフェとして現代的に再利用しています。
自宅でも、古材やアンティーク家具、クラシカルな照明を取り入れることで、時間の重みや空間の深みを演出できます。
また、素材や意匠に物語性を持たせることで、ただのインテリアではなく“暮らしの中で感じる歴史や個性”を取り入れられるのがポイントです。
施設情報
| 施設名 | Café 1894 |
| 住所 | 〒100-0005 東京都千代田区丸の内2-6-2 三菱一号館美術館1F |
| HP | https://mimt.jp/cafe1894/#/top |
名建築リノベを自宅リノベに応用するポイント
名建築リノベは大規模な施設だけの特別な手法ではなく、一般の住宅リノベでも応用できる要素が多いのがポイントです。
ここでは、名建築リノベからヒントを得て、自宅をより美意識の高い空間にするアイデアを紹介します。
① 素材の“質感”を活かす
名建築には、木、石、タイル、左官など、経年によって深みが出た素材が多く使われています。そのエッセンスを自宅に持ち込むだけで、空間に奥行きと落ち着きが生まれます。
- 無垢材のフローリング
- モルタルや漆喰の壁
- タイルを部分的にあしらう
- 古材をカウンターや棚として再利用
など、素材にこだわると名建築的な雰囲気がつくれます。
② 光と影のコントラストをつくる
名建築には「光の入り方が計算された空間」が多く存在します。自宅でも、照明の配置や窓と壁のバランスを意識すると、同じような“陰影の美しさ”を再現できます。
- 間接照明を壁・天井に仕込む
- ダウンライトを点で配置してメリハリをつくる
- 壁の一面を暗くする“暗がりのデザイン”
照明計画を工夫するだけで、一気に名建築らしい雰囲気が生まれます。
③ アーチ・框・格子などの“ディテール”を取り入れる
名建築の魅力は、細部のデザインにも表れます。
- アーチ型の開口
- 縦格子や障子を現代的にアレンジ
- モールディングや框で空間にリズムを作る
こうした小さなデザインを1か所取り入れるだけでも、空間の表情がぐっと豊かになります。
④ 古いものと新しいものを“編集”する視点を持つ
名建築リノベの本質は、古い良さを尊重しつつ、今の暮らしに合わせて再構築すること。
- 既存の梁をあえて見せる
- 元からあるドアやガラスをクリーニングして再利用
- 古道具やヴィンテージ家具を一点だけ置く
自宅でも上記のように「残せるものは残す」という視点でデザインを組み立てると、個性ある住まいになります。
まとめ
名建築リノベは、歴史ある建物が持つ魅力を活かしながら、現代の空間へと美しく生まれ変わらせる手法です。そこには、素材感、光の扱い、ディテール、古いものと新しいものの調和といった、多くのヒントが詰まっています。
これらの考え方は、自宅リノベーションでも十分に応用可能。“名建築が持つ美意識”を日常の住まいに取り入れることで、暮らしそのものがより豊かになります。







