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上がり框とは?設置を判断する基準と高さ・素材選びのポイントを解説

上がり框とは、玄関の土間と床(玄関ホール)との段差部分に取り付けられる横木のことです。

日本には靴を脱いで家に上がる習慣があるため、靴を脱ぐ直前の土間と玄関ホールの段差に張り付けられた化粧材と言えば、分かる人も多いのではないでしょうか。

玄関における上がり框は、言われてみないと分からないほどの存在感ですが、玄関のデザインや仕様を検討する時に設置するかどうかを考える必要があります。

なぜ、上がり框について考えないといけないのか。

その理由は、玄関の印象を大きく左右する部分だからです。

LIXILが戸建てに住む40~60代の男女を対象に行った調査によると、約85%が「玄関はその家の第一印象を決める」と回答しています。つまり、新築や玄関のリフォームにおいて玄関はとても重要な場所。特に上がり框は、玄関扉を開けるとすぐに目に付くほど、どっしりと構えているパーツであるため、設置した場合としない場合で玄関の第一印象が大きく変わってきます。

だからこそ、上がり框とはどういうものかを理解し、上がり框を設置すると決めた際には、あなたの暮らしに合った高さや素材、デザインを判断できるようになる必要があります。

そこでこの記事では、上がり框とはどういうものか、役割から玄関の仕様・デザインを決める上で知っておくべきことを網羅的にまとめ、解説しています。

まず、上がり框を考える上で基本となる

  • 上がり框とはどういうものか
  • 上がり框を設置するメリット・デメリット
  • 上がり框を設置した場合としない場合の違い

などの情報を知ることが大切です。その上で、

  • 上がり框を玄関に採用するポイント
  • 上がり框デザインの選び方

について説明していきます。

最後まで読み進めれば、自分が上がり框を採用すべきか、採用する場合はどのような高さ・素材・デザインを選ぶべきか判断できるようになります。いろいろな選択肢がある中であなたが求める上がり框を実現してくださいね。

この記事の監修者

一級建築士
西村 一宏

東洋大学ライフデザイン学部講師。リノベーション・オブ・ザ・イヤーを受賞した設計・施工部門の責任者としてゼロリノベ建築を担う。

目次

玄関の上がり框(かまち)とは?

冒頭でも触れたとおり、上がり框とは、玄関の土間と床(玄関ホール)との段差部分に取り付けられる横木を指す建築用語です。もう少し分かりやすく言うと、玄関ホールや廊下の床材と靴を脱ぐ土間スペースの接続部分を隠すカバーのようなもの。「玄関框(げんかんかまち)」と呼ばれることもあります。

最近は、バリアフリーや玄関デザインの多様性から、新築やリフォームなどの際に上がり框なしを選択するケースが増えていますが、昔は上がり框を設置するのが主流でした。それは、玄関に段差があることが当たり前だったからです。

昔の住宅は、地面(土)の上に基礎を組んで家を建てていくのが一般的です。しかし、日本は高温多湿な気候で、床が低いと土から湿気の影響を受けてしまうため、建築基準法で木造の1階は地面から450mm以上の高さが必要と決められ、必然的に玄関に段差ができていました。

玄関に段差があるとどうでしょう。玄関扉を開けた時に段差部分が目に留まりやすくなりませんか?

特に昔は、まだ核家族化が進んでおらず、玄関スペースを広く取る必要があります。その分、玄関における上がり框の存在感が増し、こだわりの上がり框を設置することが主流となりました。

しかし、現在は、鉄筋コンクリートの基礎上に土台を組み、その上に柱を建てていくケースが主流です。地面に対する設備が整っていれば湿気の心配がいらないため、床の高さが地面から450mm以下でもOKとなっており、段差の低い玄関やフラットな玄関も実現可能であることから、上がり框なしという選択肢をするケースも増えています。

また、最近はコストカットやあえてインダストリアルな雰囲気を残すデザインなど、玄関に対する考え方が多様化しており、あえて上がり框を設けず、玄関ホールの床材と土間のコンクリート部分をむき出しにするケースも見られます。

玄関の仕様・デザインを決める上で重要な上がり框の3つの役割

上がり框というものがどういうものか分かったところで、「現在の住宅事情において上がり框にどういう役割があるのだろう?」と思う人も多いはず。

ここでは、玄関の仕様やデザインを検討する際にポイントとなる上がり框の役割について詳しく解説します。

上がり框の主な役割は、次の3つです。

  • 家の外と内の境界線
  • 椅子代わり
  • 玄関の顔

上がり框の役割をなんとなく想像できたという人もいるかもしれませんが、改めて確認し、理解していきましょう。

2-1. 家の外と内の境界線

上がり框には、家の外と内を明確に区別するボーダーラインとしての役割があります。

日本には家の外と内という概念があり、玄関においては一般的に土足エリアである土間スペースが“外”、靴を脱いで上がった玄関ホールが“内”と認識されています。

子どものころに、土間スペースを裸足や靴下で歩いて注意されたり、玄関ホールへ靴のまま上がって叱られたりした経験はありませんか?注意される理由は、土間スペースが“外”、玄関ホールが“内”という感覚があるからです。

また、「玄関に降りる」や「家に上がる」という表現することからも、上がり框は家の外と内を明確にする境界線の役割を担っていることが分かりますよね。

玄関扉を開けた時に、誰もが瞬時に家の外と内を判断できるようにしたい人は、上がり框を設置しましょう。

2-2. 椅子代わり

段差に設けられる上がり框には、椅子としての役割があります。

例えば、靴紐が付いたスニーカーなどを脱ぎ履きする場合を想像してみてください。片足立ちで靴を履けても、紐を結ぼうとした時にふらつきいてしまい、しゃがんで靴紐を結んでいませんか?そのような時、椅子があると腰を掛けてラクに靴紐を結べ、靴を履いた後もスムーズに立ち上がることができますよね。

特に、高齢者や小さな子どもは、片足立ちが難しく、座って靴を脱ぎ履きするほうが安全かつスムーズに靴の脱ぎ履きができます。

また、上がり框に高さがある場合、座るのにちょうどよい場所です。家に上がるほどではない客人と話をする時に、腰掛け椅子代わりとして使ってもらうこともできるため、上がり框を設けることで靴の脱ぎ履きや、玄関でのコミュニケーションが図りやすくなります。

2-3. 住まいの顔

住人や客人を迎える上がり框には、「住まいの顔」としての役割があります。

上がり框は、靴を脱ぐ習慣がある日本において身近な存在。毎日何気なく見たり、通ったりしている場所ですが、実際にはあまり意識していないというのも事実です。

しかし、靴を脱いで家に上がる時に、最初に触れる場所が上がり框です。人の往来が多く、玄関扉を開けるとすぐに目に入るパーツでもあります。

そのため、昔から上がり框には高級を感じられる高品質な素材が用いられ、現在においても見た目や耐性にこだわった素材を使われるケースが多く見られます。

また、上がり框には、玄関をきれいに見せたり、広く見せたりする視覚的な印象を操作する役割もあります。

このことから、上がり框には家の印象を左右する重要な場所であると言えます。

上がり框を採用した場合のメリット3つ

玄関に上がり框を採用した場合、

  • 床材を保護できる
  • 靴の脱ぎ履きを安全に行える
  • 個性的な玄関を実現できる

という3つのメリットがあります。上がり框を設置することで、実際のシチュエーションにあてはめながら、具体的に紹介します。

3-1.床材を保護できる

耐久性に優れた上がり框を設けることで、床材の汚れや傷みを防ぐことができます。

玄関は、土埃や雨の日には水滴や泥汚れなどが運ばれてくる場所です。土間スペースへ侵入した汚れは、玄関扉を開けた時の吹き込みにより端や隅にたまりやすい性質があります。この時、玄関に段差と上がり框があれば、土埃や雨の日の水滴、泥汚れをブロックしてくれるため、クリーンな玄関を保ちやすくなります。

しかし、バリアフリーやあえて上がり框なしのデザインを選んでいたらどうでしょう?土間スペースへ侵入した汚れは、吹き込みによって室内へ運ばれやすくなります。また、段差があっても上がり框がない場合、端にたまった汚れや水滴などでむき出しの床材を傷めてしまう可能性があります。

玄関の上がり框は人の往来も多く、汚れやすく傷みやすい場所です。しかし、急な来客に備えて清潔かつ安全な状態を保っておきたいところでもあるため、土埃などの侵入を防いでくれる上がる框の設置は大きなメリットです。

3-2. 靴の脱ぎ履きを安全にできる

上がり框の役割のところで、「椅子代わりになる」という話をした通り、上がり框に高さがある場合、座った状態で安全に靴を脱ぎ履きができます。また、上がり框部分は、耐久性に優れた素材を採用するのが一般的であるため、とても頑丈です。安心して腰を掛けて靴の脱ぎ履きができます。

特に子どもの場合、靴を脱ぎ履きする姿勢でもっとも多いタイプが座位です。日本家政学会誌に掲載された論文「保育所のテラスにおける子どもの靴を脱ぐ操作と姿勢の発達的検討」によると、年齢が小さいほど、靴の脱ぎ履きに手を使う傾向が見られます。

そのため、小さな子どもがいる場合、上がり框を設けることで靴の脱ぎ履きが安全にできるだけでなく、生活面での発達や自立を促すことにもつながります。

高齢者の場合も、年齢を重ねるほど片足立ちがしづらくなるため、椅子のように座れる上がり框があると靴の脱ぎ履きによる転倒の心配がほとんどなく、履く・脱ぐ・立つの動作がラクになります。

3-3. 個性的な玄関を実現できる

上がり框に使用する素材やデザインにこだわることで、使いやすさだけでなく個性的な玄関にすることができます。

上がり框のデザインは、玄関の雰囲気や好みに合わせてを素材を自由に決めることができるため、玄関ホールの木材とは異なる素材やカラーで遊び心をプラスすれば、自分らしさを表現することも可能です。

このように、自由に設計・デザインすることで玄関に個性を持たせられるところは、上がり框なしのケースでは実現できないメリットと言えます。

上がり框を採用した場合のデメリット2つ

玄関における上がり框のメリットは分かりましたが、一方でデメリットもあります。

上がり框を採用した場合、

  • 転倒のリスクがある
  • コストがかかる

という2つのデメリットがあげられます。メリットと併せてデメリットを確認し、上がり框を採用すべきかどうかを検討する時の判断材料にしてみてください。

4-1. 転倒のリスクがある

先ほど、上がり框のメリットのところで段差があると座ることができるため、安全に靴の脱ぎ履きができるとお話ししました。しかし、段差はデメリットでもあります。なぜなら、段差を昇り降りする時の転倒リスクを高めてしまうからです。

高齢者でなくても段差でつまづいたり、フラットな部分でも足がもつれたり、何かに足を引っかけてこけてしまうこともありますよね。

しかし、高齢者の場合は筋力やバランス、視力などの身体的機能や感覚機能が低下するため、より転倒のリスクが高まります。実際、日本臨床整形外科学会が発行する会報誌「臨床整形外科 53巻11号」に掲載された調査報告のデータを見ると、高齢者の屋内転倒は約79.3%を占めている状況です。

段差や障害物が原因の転倒は、屋内転倒の内の約31.3%となっており、割合的には高くありません。ですが、高齢者と若者の場合、転倒したときの症状に大きな差があります。

年齢を重ねると、男女とも骨量が減少し、転倒することで骨折を起こすなど、重症化しやすい傾向があります。国民生活センターが発表した「医療機関ネットワーク事業からみた家庭内事故-高齢者編-」の転倒事例を見ても、転倒による骨折の事例報告が多い状況です。

そのため、今、生活に支障のない上がり框の高さでも、高齢者が同居しているケースや老後に転倒の危険因子となる可能性があります。

4-2. コストがかかる

上がり框を採用すると、その分コストがかかります。上がり框の設置で必要となる主なコストとしては、次の2つです。

  • 素材やデザインに関連する設置費用
  • バリアフリー化の費用

ただし、コストについては、工夫次第で費用を抑えられる可能性があります。詳しく見ていきましょう。

421. 素材やデザインに関連する設置費用

上がり框を設置すると、材料費やデザイン料などが必要となります。

上がり框は、毎日のように人が往来する場所なので、耐久性や安全性を考えると高品質なものを選ばざる終えません。

また、上がり框の役割でも触れましたが、「住まいの顔」としての役割を担う玄関パーツのひとつでもあります。特に客人は、家を上がる時に、必然的に上がり框を見て靴を脱ぐ場所を把握します。そのため、上がり框を採用する場合は耐久性や見た目に配慮し、素材やデザインにこだわるケースが多く、設置費用は高くなりやすい傾向が見られます。

上がり框を採用した場合、設置に関連する諸費用は必要不可欠であるため、予算を考慮しながら理想を実現する必要があるでしょう。

422. バリアフリー化の費用

上がり框を採用した場合、バリアフリー化する時に追加費用が発生しやすい傾向です。

いつまでも健康でありたいものですが、いつ病気やケガをするか分かりませんよね。もし身体的に不自由な状態になると、玄関も暮らしに合わせてリフォームする必要が出てきます。

例えば、今靴の脱ぎ履きがラクだからという理由で、高い上がり框を採用した場合、生活に不自由が生じた時に段差を解消する式台や昇降時に身体を支えられる手すりなどを設置する必要が出てきます。車いす生活を余儀なくされた場合、スロープなどの設置費用も必要となるでしょう。

このことから、病気やケガをした時や老後にバリアフリー化することを考えている人は、将来の生活環境についてある程度の見通しを立てた上で、高さやデザインなどを決めることが大切です。

採用を前向きに検討したい!上がり框の設置がおすすめな人

ここまで、上がり框の役割やメリット・デメリットについてお話ししてきました。

ですが、上がり框について理解を深められたものの、「結局自分は上がり框を採用すべきなの?」と結論に至らなかった人もいると思います。

その時は、次の2つが自分にあてはまるかどうか考えてみてください。

  • 利便性と実用性を兼ね備えた玄関にしたい
  • 自分たちらしい玄関デザインを実現したい

もしいずれか1つでもあてはまるのであれば、上がり框の設置が向いています。

なぜ上がり框の設置が向いているのか、具体的なシチュエーションを交えながら解説しているため、ぜひ参考にしてください。

5-1. 利便性と実用性を兼ね備えた玄関にしたい人

上がり框を採用することで、誰もが気持ちよく利用できる利便性と実用性を兼ね備えた玄関を実現できます。

玄関は毎日使う場所だからこそ、子どもから高齢者まで、みんなが気持ちよく使える場所にしたいもの。客人も利用する場所なので、尚更です。

玄関に上がり框を設けると、

  • 家の外と内が明確で、誰もが靴の脱ぐ場所を瞬時に判断できる
  • 椅子代わりになる
  • 段差部分にゴミがたまり、掃除がしやすい
  • 床材を保護できる
  • 靴の脱ぎ履きがしやすい
  • 段差を低くし、上がり框部分を明確にすること高齢者や車いすの人も使いやすくなる

以上のような日々の暮らしにおける利便性と実用性が向上します。

このように、あらゆるシチュエーションにおいて上がり框が機能し、普遍的な価値が生み出されていることから、玄関を利用する家族はもちろん、客人を含む誰もが使いやすい玄関にしたい人は上がり框を設置が向いています。

5-2. 自分たちらしい玄関デザインを実現したい人

上がり框を設けることで、デザインの幅が広がり、唯一無二の自分たちらしい玄関が実現できます。

玄関デザインは、人によっては暮らしにおいて必ずしも必要なものではないかもしれません。しかし、上がり框をこだわるだけで、玄関の印象は大きく変わり、住人や客人を迎え入れる雰囲気を演出できます。

上がり框は、素材やデザインの組み合わせが自由にできるため、個性を持たせることもできます。

ほかにはない上がり框のデザインを採用することで、玄関扉を開けた時に「家に帰ってきた」という気持ちの面での満足感も得られます。

毎日の帰宅が楽しみになるような玄関にしたい人は、玄関デザインを最大限に活かせる上がり框を設置しましょう。

上がり框なしもひとつの選択肢!上がり框の設置をおすすめしない人

玄関に段差を設けるものの、上がり框は採用しないという選択肢もあります。

実際、マンションをはじめとした集合住宅の場合、雨の日でも玄関に到達するまでに水滴や泥汚れが落ち、土埃も室内に舞い込みにくいため、段差を設けるものの、上がり框は付けないケースが増えています。

特に、次の3つにあてはまる人は、上がり框なしという選択もありです。

  • 予算を抑えたい
  • こだわりの床材をそのまま活かしたい
  • 将来、暮らしに合わせてリフォームする予定

なぜ上がり框の設置をおすすめしないのか、具体的に解説していきます。

6-1. 予算を抑えたい

もし上がり框に対してこだわりがないのであれば、上がり框なしにすることでコストカットが可能です。

お金をかければよりよい玄関にできます。しかし、お金はこれまで費やしてきた仕事や時間に対する対価です。今の暮らしはもちろん、今後のことを考えると新築やリノベーションにかけられる費用には限度があります。

上がり框のデメリットでもお伝えしましたが、上がり框を設けると、素材やデザイン料が必要になります。こだわればこだわるだけコストがかさむため、玄関は最低限の機能さえあればよいという人は上がり框を設置しないという選択もありです。

6-2. こだわりの床材をそのまま活かしたい

床材に使用している素材によっては、切りっぱなしでも見栄えします。そのため、上がり框を設置しなくても玄関の印象をよく見せることができます。

例えば、木の風合いが楽しめる無垢材。1枚1枚の木目が異なり、素材感が活きた床材なので、上がり框を設置しなくてもおしゃれな玄関を演出できます。

段差のないバリアフリー住宅はもちろん、玄関と室内が1つの空間になっているようなケースでは、特に上がり框なしという選択をする人が多い傾向です。

床材を活かした玄関にすることで、カフェのような非日常感やインダストリアルな雰囲気の演出もできるため、床材にこだわっている人は上がり框を設けない切りっぱなしも選択肢のひとつです。

6-3. 将来の暮らしに合わせてリフォームする予定

将来、その時の暮らしに合わせたリフォームを考えているという人が、予算をかけて上がり框を設置するのは避けるべきです。

「今こだわりの玄関を実現して、生涯そのまま利用するつもり」というのであれば、素材やデザインにこだわった上がり框を設置してもよいでしょう。

ですが、想像してみてください。今ベストな選択であっても、将来、家族が増えて間取りを変えたり、老後に備えてバリアフリー化したりする可能性がありますよね。

そのため、「将来のことはその時に考える」という人は、段差だけを設け、上がり框はなしという選択肢もありでしょう。

上がり框を採用するときに押さえたい2つのポイント

上がり框の設置をおすすめする人としない人を自分に置き換えてみた時に、「やっぱり自分の暮らしには上がり框が必要」と思えるのであれば、これから紹介する2つのポイントを考慮して選びましょう。

【上がり框を採用する時の2つのポイント】

  • バリアフリーと地盤を考慮した上がり框部分の高さ
  • 生活環境に合わせた上がり框の素材選び

多くの選択肢の中から自分たちに合った上がり框を採用するためには、高さの基準や自分に向いている素材を選ぶ見極め方を知っておく必要があります。詳しく見ていきましょう。

7-1. バリアフリーと地盤を考慮した上がり框部分の高さ

上がり框を採用する場合、高さを決める必要がありますが、自分たちで自由に決定できるケースがほとんどのため、迷う人は少なくありません。

そのような時は、

  • バリアフリー住宅
  • 地盤からの高さ

以上の2つを基準に選ぶことで、自分たちの生活におけるベストな上がり框の高さを見つけられるはずです。

7-1-1. 迷う時はバリアフリー住宅の基準を目安に

上がり框の高さを決めかねているのであれば、バリアフリー住宅の基準を参考にすることをおすすめします。なぜなら、今生活に支障のない高さでも、将来的に昇降時や靴の脱ぎ履きをする際にストレスを感じてしまう可能性があるからです。

国土交通省が定めるバリアフリー住宅における上がり框の高さの基準を見てみましょう。戸建てと集合住宅、それぞれの基準は以下の通りです。

戸建て 集合住宅
180mm以下 110mm以下

参考:国土交通省「建築基準法の階段に係る基準について

建築基準法によると、一般住宅の階段の高さは23mm以下なので、上がり框の高さは階段と比べると低い状況です。しかし、それぞれの高さを身近なものの大きさに例えると、戸建ての180mmはコミック本の縦、集合住宅の110mmは文庫本(A6サイズ)の短辺ほどの高さがあります。

どれくらいの高さ化知りたい時は、ぜひ実際にコミック本や文庫本を並べてみてください。想像するよりも実際に見たほうが生活に置き換えた時にどうなのかを想像しやすいはずです。

また、もし要介護・要介護者がいる、もしくは将来介助が必要になる可能性を考えている場合は、バリアフリー住宅の基準よりもさらに低くしておくのがベストです。

特に、介助の必要性や車いすの生活が想定される場合は、上がり框の高さは50mm以下に設定して置きましょう。車いすに関する論文や実験、調査に関する資料において、車いすで超えられる高さを5cmで設定されているケースが多いためです。

玄関の上がり框は、生活動線の中でも使用頻度の高い場所です。バリアフリー住宅の基準を目安に、生活における利便性を考慮して高さを検討しましょう。

7-1-2. 地盤からの高さも考慮すべき

マンションなどの集合住宅の高層階の場合、低い上がり框を採用しても浸水の心配はほとんどありませんが、集合住宅の地上階や戸建ての場合、建物や地盤の高さによっては浸水の可能性があります。

近年の異常気象により、全国各地で豪雨被害が出ています。低い上がり框を採用すれば、その分段差も低くなり、自然災害によって玄関や室内が浸水するリスクが高まります。

そのため、低い上がり框を採用する場合は、建物や地盤の高さも考慮した慎重な判断が必要です。

7-2.生活環境に合わせた上がり框の素材選び

上がり框で使用頻度の高い素材は、次の3つです。

  • 木材
  • 石材、タイル
  • ステンレス

上がり框は人の往来が多く、腰を掛けたり、重い荷物を置いたりすることもあるため、デザイン性だけでなく、負荷に耐えられるだけの耐久性も含めて検討することが大切です。

ここでは、それぞれの特徴とともに、各素材がどのような人に向いているのかを具体的に紹介していきます。

7-2-1. 木材

木材は、上がり框としてよく用いられる素材です。玄関ホールの床材(フローリング)との相性がよく、和風・洋風のいずれにも合わせやすい特徴があります。

特に、木材の中では、強度や弾力性に優れた「檜(ひのき)」や「欅(けやき)」の2つが人気です。どちらも木目の美しさにも定評があるため、家の雰囲気と合わせた上がり框を検討している人に最適です。

床材と同じ木材を採用することで、統一感のある玄関を実現できます。

7-2-2. 石材・タイル

石材・タイルは、汚れやキズに強い素材です。カラーバリエーションが豊富で、木材では実現しづらい色やデザインにすることもできるため、設計の自由度は高いと言えます。

上がり框としてよく用いられている石材は、模様に華やかさがある「大理石」とカラーバリエーションが豊富な「御影石」の2つです。タイルでは、サイズやカラーが豊富にそろう「モザイクタイル」が好まれています。

見た目にも美しく、高級感もあるため、個性を存分に発揮したい人は、素材やカラーバリエーションが豊富な石材・タイルがおすすめです。

素材を使い分けることで個性的な玄関から品格漂う玄関まで、幅広いイメージを実現できるでしょう。

7-2-3. ステンレス

ステンレスの上がり框は、水に強いという性質があります。色や形状は少ないですが、公共施設などでも用いられるほど高い耐久性に優れ、シンプルながらも高級感を演出してくれるため人気です。

木材や石材などは水に弱い種類があり、お手入れにも注意が必要なケースが多いですが、ステンレスは水拭きOKなケースがほとんどなので、アウトドア好きな人やペットを飼っているいる人など、玄関が汚れやすい人に最適です。汚れても気軽にお手入れできるのは嬉しいポイントですね。

理想を実現できる上がり框デザインの選び方

上がり框を設ける場合、高さや種類の把握ができたら、上がり框デザインを決めていきましょう。

ここでは、まず上がり框デザインのタイプについて解説し、その後に、理想を現実にできる玄関スペースの活用目的を考慮した上がり框デザインの選び方を紹介します。

8-1. 上がり框デザインのタイプは4つ

上がり框デザインとしては、次の4つがあげられます。

  • ストレートタイプ
  • 斜めタイプ
  • 曲線タイプ
  • L字、コの字タイプ

まずは、どのようなデザインなのか確認していきましょう。

811. ストレートタイプ

ストレートタイプは、段差の縁に沿って直線状に取り付けられた上がり框デザインです。デザインがシンプルなのが特徴です。使い勝手がよく、多くの住宅で採用されているため、上がり框デザインにこだわりがなければ、ストレートタイプでよいでしょう。

812. 斜めタイプ

斜めタイプの上がり框も段差の縁に沿って直線状に取り付けられるタイプです。ストレートタイプと同じ幅の玄関の場合、斜めタイプを採用することで上がり框が長くなるため、靴を脱ぎ履きするスペースを広げることができます。視覚的に広く見せることも可能です。

813. 曲線タイプ

曲線タイプは、カーブした床材に沿って取付された上がり框デザインです。曲線のデザインは、「C字」「S字」「J字」「グランドピアノ風」など、多種多様です。

曲線タイプを採用すると、丸みを帯びている分直線よりも優しい印象を与えられ、土間を広く見せることができます。

814. L字、コの字タイプ

L字やコの字タイプは、文字通り「L字型」や「コの字型」の床材に沿って取り付けられた上がり框デザインです。上がり框部分が2辺もしくは3辺に増え、長さも延びるのが特徴です。

靴を脱ぎ履きするスペースが広がるため、大家族や来客が多いケースなど、複数人で玄関を使う場合もスムーズに出入りできます。

8-2. 上がり框デザインは玄関スペースや活用目的で選ぶ

上がり框デザインの種類を把握したら、実際の玄関スペースや利用目的に合わせてデザインを決定しましょう。

玄関スペースや活用目的例としては、以下の3つがあげられます。

  • コンパクトな玄関にしたい
  • 玄関を広く見せたい
  • 空間を有効活用したい

この3つ玄関スペース・活用目的別に、上がり框デザインを分類すると次のようになります。

玄関スペース・活用目的 上がり框デザイン
コンパクトな玄関にしたい ストレートタイプ
玄関を広くしたい・見せたい 斜めタイプ
曲線タイプ
空間を有効活用したい L字、コの字タイプ

なぜその上がり框デザインがあてはまるのか、詳しく見ていきましょう。

8-2-1. コンパクトな玄関にしたいなら「ストレートタイプ」

ストレートタイプを採用すると、直線的なラインで空間を区切ることができ、まとまりのある玄関を実現しやすいです。そのため、特に玄関スペースが充分に確保でき、靴を脱ぐスペースも最低限の広さがあればよいというケースの場合には、ストレートタイプが最適です。

デザインもシンプルで余計なスペースもなくなるため、玄関をコンパクトに見せることができます。

8-2-2. 玄関の広さを演出する「斜めタイプ・曲線タイプ」

玄関スペースが限られている場合は、できる限り広く見せたいもの。そのような時に斜めタイプや曲線タイプの上がり框を採用すれば、角度やカーブの効果で土間スペースを広げることができます。

斜めや曲線の上がり框を採用することで、視覚的に空間を広く見せることもできるため、狭い玄関スペースを有効活用したいケースに向いています。

また、曲線を採用することで角がなくなるため、どこからでも靴の脱ぎ履きもしやすくなるでしょう。

823. 空間を有効活用したいなら「L字タイプ・コの字タイプ」

玄関スペースを確保できる場合は、利便性を高められるL字やコの字タイプがおすすめです。

L字やコの字タイプは、上がり框が2辺もしくは3辺あり、壁と隣接していないケースがほとんどです。また、ほかのタイプと比べると開放感があるため、玄関スペースを最大限に活かしたいケースに向いています。

複数人での出入りも二手に分かれての利用も可能になるため、L字タイプ・コの字タイプの上がり框は、空間を有効活用するのに適したデザインと言えます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?上がり框とはどのようなパーツなのか把握でき、採用する場合の具体的な高さ・素材・デザインが分かったと思います。

最後に、もう一度記事の内容をまとめると、

◎上がり框とは、土間と玄関ホールの境界線となる段差のこと

◎上がり框の役割は次の3つ

  1. 家の外と内の境界線
  2. 椅子代わり
  3. 玄関の顔

靴を脱いで家に上がる日本ならではの役割を担っています。

◎上がり框を採用した場合のメリット・デメリットは

上がり框を採用した場合のメリット 上がり框を採用しなかった場合のデメリット
  1. 床材を保護できる
  2. 靴の脱ぎ履きを安全にできる
  3. 個性的な玄関を実現できる
  1. 転倒のリスクがある
  2. 素材やデザイン、バリアフリー化の時にコストがかかる

◎上がり框の設置がおすすめな人・おすすめしない人は

上がり框の設置がおすすめな人 上がり框の設置をおすすめしない人
  1. 利便性と実用性を兼ね備えた玄関にしたい人
  2. 自分たちらしい玄関デザインをしたい人
  1. 予算を抑えたい
  2. こだわりの床材をそのまま活かしたい
  3. 将来、暮らしに合わせてリフォームする予定

◎上がり框を採用する場合

  1. バリアフリーと地盤を考慮した上がり框の高さ
  2. 生活環境に合わせた上がり框の素材選び

以上、2つのポイントを押さえた上で、

玄関スペース・活用目的 上がり框デザイン
コンパクトな玄関にしたい ストレートタイプ
玄関を広くしたい・見せたい 斜めタイプ
曲線タイプ
空間を有効活用したい L字、コの字タイプ

以上の玄関スペースや活用目的に合わせ、デザインを決定しましょう。

上がり框を採用するかしないかに正解はありませんが、家族みんなが使う場所であるため、自分たちが使いやすい暮らし方に合わせた選択をしたいものです。

これまで解説してきた内容を踏まえ、あなたがもっともベストな上がり框を選択できるよう願っています。

この記事の制作体制
  • 大月知香

    ゼロリノベの編集者。大学時代にデンマークへの留学を通して、北欧の人々の住まいに対する美意識の高さに感化される。暮らしにおける「住」の重要性を伝えたいと住宅雑誌の編集を経験。より自分らしく、自由に生きられる選択肢の一つとしてリノ...

  • 西村 一宏

    リノベーション・オブ・ザ・イヤーを受賞した設計・施工部門の責任者としてゼロリノベ建築を担う。

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