幸福学に学ぶ、人生100年時代の自由でウェルビーイングな暮らし方前野隆司教授【大人の “自由” 研究 vol.2】<前編>

大人を自由にする住まい。それは、人生の選択肢を広げる「余白」があるということ。すべての人になくてはならないものだから、真正面から考えたい。自由とは? 余白とは? 家を、生き方を、住宅業界を、もっとより良くするために。不自由があるならそれを取り除くために。毎回テーマを変えて、スペシャリストにインタビュー
誰もが望むものの、思うままにならない「幸せ」という感覚。それをデータサイエンスで分析していく幸福学の第一人者・前野隆司教授に聞いた。自由で幸せな暮らしってなんですか?
[教えてくれた人]武蔵野大学ウェルビーイング学部長 前野隆司
慶應義塾大学名誉教授。東京工業大学(現東京科学大学)大学院理工学研究科機械工学専攻修士課程修了。博士(工学)。キヤノン株式会社に勤務後、慶應義塾大学理工学部機械工学科教授、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長などを歴任。著書に『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)『ディストピア禍の新・幸福論』(プレジデント)他多数。TED出演や講演など幅広く活躍している
長続きする幸せと、長く続かない幸せがある
——そもそも幸せとはどういう状態を指すのでしょう
幸福学では「心の良い状態」と捉えています。well-being(ウェルビーイング)が、社会的・身体的・精神的に良い状態を示すもので、その中の精神面を研究するのが幸福学。統計を用いた心理学で幸せを分析します。人間がどんなときに幸せを感じるのかを研究すると、実は100も200も起因するものがあって、それらが混然と複雑に繋がっている状態が幸せの全体像なのですね。

——幸せにはグラデーションがあって、その時々で色が濃くなったり薄くなったりするような?
まさにそのイメージです。幸せに影響する財を大別すると “地位財” と “非地位財” に分かれます。前者はポジショナルグッズの和訳で「人と比べて満足感を得られる財」という意味。経済学者のロバート・H・フランク先生がつけたネーミングで、お金と物と地位を指します。
後者は「人と比べずに幸せを感じられる財」で、健康や良好な環境、やりがい、社会とのつながり、愛情、そして自由。どれもお金で買えないものです。
しかも「幸せが長続きしないのが地位財、長続きするのが非地位財」だと、心理学者のダニエル・ネトル先生が提唱しています。

——ゼロリノベでは「大人を自由にする」という理念を掲げています。もっとも大切にしている「自由」が「持続する幸せ」であることはうれしいですね。でもなぜ、地位財と非地位財とで幸せの持続性が違うのでしょう
心理学的に明確な答えは出ていませんが、化学的に言うと地位財を手にいれるとドーパミンが出るんですね。ただし、この報酬ホルモンが出るのはわずかな間だけ。
だから、人と勝ち負けを競うスポーツで優勝したり、お金や物を手に入れたりしてドーパミンが出ると、「やったぜ」と思うのはその時だけなんです。
一方で、愛情や自由、帰属意識などの非地位財を得た時は、セロトニンやオキシトシンが出ます。小さな子を見て元気に育ってほしいと願ったり、人に感謝したりする時に出る愛情ホルモンで、こちらは長続きするんですよ。

例えば、自分ひとりでチャレンジするとドーパミンだけが出て、身勝手な幸せにもなりそうですが、人と協力して何かをやってみる場合は、非地位財を得た時に出るセロトニンやオキシトシンも一緒に出てくる。そうなると、脳は「長続きする幸せ」を感じる状態になっていると言えるでしょう。
——ドーパミンがちょこちょこ出て、セロトニンやオキシトシンがそれを支える状態が良いということですね。
そうそう! ドーパミンも大事ですが、それだけだと幸せが一気に下がってしまうので、セロトニンとオキシトシンが支えていることで、優しい幸せの余韻が長く続くようになるのだと考えられます。

幸せをつくる4つの因子
——非地位財について、もう少し詳しく教えてください。
私は非地位財の因子分析をして、幸せには「4つの因子」があることを導き出しました。1つ目は「やってみよう因子」。何か新しくやってみる。主体的に、自由に何かを始めるということですね。
2つ目は「ありがとう因子」。感謝したり、利他的であったりすることがこの因子なんですけれど、そこには多様性も含まれます。だから、マイノリティの人なども含んだ多様な友人関係を築ける人は幸せ。型にはまらない多様性を認めるDE&I(※)という考え方にも通じます。
※多様性(Diversity)、公平・公正性(Equity)、包摂性(Inclusion)の頭文字を取ったもの。ダイバーシティ&インクルージョンを発展させて公平・公正性を加えた概念
3つ目は「なんとかなる因子」。前向きで楽観的に考えられる人は幸せなんですね。悲観的な考えや「こうしなければならない」という枠に囚われているのなら、そこから自由になって「どんなことも、なんとかなる」と考えられると幸せになれます。
4つ目が「ありのまま因子」で、人と自分を比べないこと。この4つの因子を満たしている人は非常に幸福度が高くなります。

——ゼロリノベが目指しているのは、ローンに縛られずにやりたいことを楽しめる経済的自由と、ライフスタイルが変わっても暮らしやすい空間的自由がある家づくり。いつでもその人らしい選択ができることを自由だと考えていますが、幸福度にも関係ありそうでしょうか。
そういう意味での「自由」は、僕が「幸せ」と言っていることと非常に近いですね。何かをやってみようと思えること、ありのままに自分らしく生きられることは、幸せを感じるということですから。

構成・取材・文/樋口由香里 撮影/相馬ミナ
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