マンションの建て替えに必要な自己負担金は約2800万円。建て替えが決まった場合の3つの選択肢を解説。
マンションの建て替えには、2800万円ほどの高額な自己負担金が必要です。日本はマンションの建て替えが起きにくいと言われていますが、条件に当てはまると建て替えが進むこともあります。
この記事では、
建て替えが進んだ場合の一戸あたりの費用相場
建て替えの推奨年数と必要性の有無
あまり建て替えされない大きな2つの理由
建て替えが議題に出たときの3つの対処方法
などについてお伝えします。
また、これからマンションを購入する場合の物件の選び方については、【中古マンションは何年住める?「寿命と建て替え」3つのポイント】をご確認ください。
よくあるご質問
マンションは何年で建て替えが必要ですか?
マンション(鉄筋コンクリート造の建物)の法定耐用年数は、一般的に47年と定められています。これは減価償却の計算のために設定された年数であって、実際の建物の寿命とは別物です。多くのマンションはそれ以降も住むことができます。
マンションが建て替えになった場合の費用はどうなりますか?
さまざまなケースがありますが、建て替え後のマンションに住む場合には、費用を負担する必要があります。必要な費用は一戸あたりおよそ2800万円程度と言われています。さらに事務経費などが加わり、住民自身が負担するものとして2回分の引越し費用、2年前後の仮住まい費用などで合計300~400万円がかかることも考慮に入れる必要があります。
マンションの建て替えがなくなることもありますか?
マンションの建て替えには、区分所有者(住民)の賛成が必要です。区分所有者(住民)による建て替え決議を行い、ここで4/5以上の賛成が得られなければ、次の「実施段階」へは進めません。
マンションの建て替えが決まり、費用を払えない場合はどうなりますか?
資金がなく、反対をしていたが賛成多数で建て替えになった場合は、所有している物件を売却します。この際、建て替えをすすめる組合から「区分所有権等の売渡し請求」がなされ、自分の持ち物件を時価で売り渡すことになります。
マンションの建て替えは殆どできない
実はそもそもマンションの建て替え自体が、過去にさほど多く実現していません。
国土交通省が公開している「マンション建替えの実施状況(平成29年4月1日現在)」によると、建て替えの実施準備中および実施中のマンションは36件、工事完了済のマンションは232件で、合計268件です。
全国のマンションの棟数は約10万棟と言われているので、建て替えが実現したマンションの棟数は全体の0.27%に過ぎません。
ではどうして起きにくいのかという理由ですが、大きく2つあります。
1-1.所有者の4/5以上の賛成が必要
建て替えがなかなか実現しない理由の一つは、マンションの建て替え決議が可決されるまでのプロセスが大変な点にあります。
マンション建て替え事業は通常、マンションの管理組合が建て替えについて考えるべきかを審議する「準備段階」、建て替えか修繕かを調査し比較検討する「検討段階」、デベロッパーに依頼して具体的な計画を立てる「計画段階」と進んでいきます。
そして計画が決まったら、そこで区分所有者(住民)による建て替え決議を行います。ここで4/5以上の賛成が得られなければ、次の「実施段階」へは進めません。
1-2.建て替えにかかる負担額が重い
加えて、建て替え負担額が重いことも大きな足かせとなります。負担額0円で建て替えが可能なら賛成者も増えるはずですが、これは非常に幸運なケースです。一般的に、負担額が1000万円を超えると反対数が一気に増えてしまうようです。
特に古いマンションの場合は高齢者が多く暮らしています。多額の負担額を支払い、引っ越しをして仮住まいも借りるよりは、現状のまま静かに暮らしていたいという意見が多くなるのは致し方ない面もあります。
マンション建て替えに同意するポイントは容積率
建て替えが行われる可能性が高いのは、マンションの容積率に比較的余裕がある場合です。
容積とはその敷地に建てられる建物の最大床面積のことで、その上限は行政が定めています。マンションの場合は容積率が大きいほど高層建築が可能となります。
つまり、建て替えによって新たに部屋数を増やすことができ、それを売ることで、元の居住者の負担がゼロに近くなるケースです。
例えば、元のマンションが50戸で、建て替えがされた場合には70戸になるなどのケースです。新たに売り出す分の費用で住民の負担をなくし、場合によっては、工事中の仮住まい、引っ越しの費用まで出ることもあるくらいです。
こういった場合、住民も費用負担がなく、賛成がしやすくなります。
しかし、現実には容積が余っている古いマンションはまれです。逆に、以前より規制が厳しくなったことで、現状「既存不適格」となっているマンションのほうが多いくらいです。
マンションの戸数を増やす余裕がなく、負担額が大きい場合などは反対があり実現されないというのが実情です。
マンション建て替えの国内事例
近年話題となった国内マンションの建替え事例をご紹介します。
宮益坂ビルディング
- 従前総戸数114
- 従後総戸数197
宮益坂ビルディングは1953年に東京都により分譲された「日本初の分譲マンション」です。2003年に一旦建替え決議が成立しましたが、リーマンショック等で頓挫。その後再スタートし、2012年には建替え決議が成立。建替え決議後には、建替え決議に賛成されなかった区分所有者からの訴訟もありましたが、無事に解決。着工に当たっては「日本初の分譲マンションの建替え」として多くのマスコミに取り上げられました。
四谷コーポラス
- 従前総戸数28
- 従後総戸数51
28戸の小規模マンションであったことや長く所有されている方が多くいらっしゃったことから、良好なコミュニティが維持されていました。実際の合意形成活動では、管理組合が建替えの検討開始までに着実な手順を踏まれていたこともあり、当社の参画から4ヶ月での建替え決議、建替え決議から5ヵ月での着工というスムーズな進捗を実現しました。
自己負担で建て替えたら一戸あたり2800万円!?
さまざまなケースがありますが、建て替えに必要な費用は一戸あたりおよそ2800万円が目安と言われています。
その主な内訳は、古いマンションの解体費用と新しいマンションの建設費用、さらに新マンション建設のための調査・設計・施工計画策定費用の3つです。
坪単価で計算すると1坪あたり120万円〜150万円程度と言われており、例えば、70㎡の物件で1坪130万円の場合、
21.175坪×130万円=約2,752万円
となります。
これに事務経費などが加わり、住民自身が負担するものとして2回分の引越し費用、2年前後の仮住まい費用など合計300~400万円が追加でかかることも考慮に入れる必要があります。
マンション建て替えの目安年数と鉄筋コンクリートの寿命
マンション(鉄筋コンクリート造の建物)の法定耐用年数は、47年と定められています。けれどもこれは減価償却の計算のために設定された年数であって、実際の建物の寿命とは別物です。多くのマンションはそれ以降も住むことができます。
また、東京カンテイの調査によると、実際にマンションの建替えが実施されたタイミングは、平均して築33.4年。
しかし、鉄筋コンクリートを用いた建物の実際の寿命については、国土交通省がまとめた資料「RC造(コンクリート造)の寿命に係る既往の研究例」で触れられています。ここには、100年以上との知見が示されています。
「実際の建物の減耗度調査のうえ、建物の減耗度と実際の使用年数との関係から、鉄筋コンクリ-ト造建物の物理的寿命を117年と推定」、あるいは「鉄筋コンクリート部材の効用持続年数として、一般建物(住宅も含まれる。)の耐用年数は120年、外装仕上により延命し耐用年数は150年」というのがそれです。
33.4年と100年以上、この大きな差がある理由は「建て替えることによって利益を得られる」と言う事情があります。
例えば、建物が好立地にあり、建て替えることで高額販売が見込めるためです。そうなると、建物的には寿命ではないにもかかわらず、建て替え計画が進みます。
自分マンションで建て替えの議題が上がったらどうなる?
自分の住んでいるマンションで建て替えの議題が上がった場合、次の3つのケースが考えられます。
持ち出し資金がないなら賛成でOK
持ち出しアリで資金があるなら賛成も可
持ち出しアリで資金がないなら反対or売却
それぞれについて詳しく見ていきましょう。
5-1.持ち出し資金がないなら賛成でOK
自分たちの持ち出し資金がなく、他に住みたいエリアなどがない場合は、賛成しても問題はないでしょう。マンションの建て替え期間の賃貸費用のみで新品の物件に住むことが可能です。
5-2.持ち出しアリで資金があるなら賛成も可
持ち出し資金が必要だが、自分たちに資金がある場合も賛成でもよいのではないでしょうか。ただし、今の物件を売却し、資金と合わせて別の物件を購入するという方法もあります。ここは、持ち出し費用や物件の売却金額などによって変わってきます。
5-3.持ち出しアリで資金がないなら反対or売却
持ち出しが必要で資金が出せない場合は反対をするか、売却が選択肢となります。4/5の賛成が必要となるため、1戸1戸の反対でもインパクトは十分あります。世の中のマンションによくあるケースとして居住者に高齢者が多く反対が多くなり、建て替えには至らないというものがあります。
建て替えが決まってしまった場合の選択肢
資金がなく、反対をしていたが賛成多数で建て替えになった場合にも建て替えに参加しなければいけないかといえば、そうでもありません。
建て替えをすすめる組合から「区分所有権等の売渡し請求」がなされます。この場合、 自分の持ち物件を時価で売り渡すことになります。
時価は、「新しいマンションが建築された状態における建物および敷地利用権の価格と、それに必要な経費との差額」や「更地価格と現在の建物の解体費用との差額」が基準となることが一般的です。
また、もし建替え組合と区分所有者の間で争いになるような場合は、民事的な裁判により価格を決定することになります。
金額面での調整はありますが、建て替えに参加しなければならないということはないので安心してください。
また、上記のように建替え不参加の住民が多い場合は、マンション1棟ごと売却する方法もあります。
平成26年の「マンション建替え円滑化法」改正で、旧耐震基準のマンションは、区分所有者の4/5の賛成で土地と建物を売却できるようになりました。売却した代金は、持ち分に応じて分配されます。
マンション建て替えまでの流れや期間
建て替えまでの流れは大きく5つに分かれます。
1.建替えに関しての情報収拾
2.建替え推進決議
3.建替え決議・建替組合設立
4.権利変換計画
5.建物の解体・工事・再入居
また、期間については、早くとも物件完成まで7年程度、合意形成の進み具合によっては10年、あるいは、ずっと進まず頓挫するというケースもあります。
それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。
7-1.建替えに関しての情報収拾
一番最初のステップは、情報収拾です。どんな建物にできるか、費用負担が発生するかどうか、どの程度の期間で計画を進められるのかなどを住民全体で共有していきます。
7-2.建て替え推進決議
実際に建て替えをする方向に進む場合、「建替え推進決議」という決議を、管理組合(理事会発議)が行います。ここで計画案の検討や説明が行われていきます。
7-3.建替え決議・建替組合設立
建て替えの最終判断をする「建替え決議」を行います。また、この段階で、管理組合とは異なる、マンション建替えを行う法人である「建替組合」を設立します。
建替え決議は、区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成が必要となります。建替え決議に賛成しなかった方に対して権利を買い取ることができます。
7-4.権利変換計画
権利変換とは、今のマンションから建て替えた際のマンションい権利が置き換えられることを指します。今の建物から新しい建物へ置き換える場合と、お金に変換する2つの選択肢があります。
7-5.建物の解体・工事・再入居
ここまでの手続きを行うとようやく建て替えの実施となります。建物が完成し際入居したら新しい管理組合を組合します。
まとめ
マンションの建て替えは、ほとんどの場合起きません。それは、
・4/5の賛成が必要
・費用負担がかかる
この2点の理由です。ただし、費用負担が少ない、あるいは無料で建て替えられるような条件のマンションだった場合は、建て替えが進むことも考えられます。
多くのマンションは、建て替えとならないため、長く暮らしていくためにも、老朽化させないために、大規模修繕工事や普段の管理に力を入れて、マンションの長寿命化を目指しましょう。