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無意識のうちに自分を縛る “暮らしの不自由” の手放し方|名越康文氏【大人の “自由” 研究 vol.3】<後編>

大人を自由にする住まい。それは、人生の選択肢を広げる「余白」があるということ。すべての人になくてはならないものだから、真正面から考えたい。自由とは? 余白とは? 家を、生き方を、住宅業界を、もっとより良くするために。不自由があるならそれを取り除くために。毎回テーマを変えて、スペシャリストにインタビュー

物件価格の高騰を背景に、より良い住まいを諦める人が増えている。でも本当に選択肢がないのか。既成概念に縛られていないか。思考や暮らしの不自由を手放すための糸口が見つかる、名越康文氏へのインタビュー

[教えてくれた人]精神科医 名越康文

大阪精神医療センターで精神科救急病棟を設立。1999年に同病院を退職後、臨床に携わる一方でメディア出演や講演などで活躍。著書に「SOLOTIMEひとりぼっちこそが最強の生存戦略である」「どうせ死ぬのになぜ生きるのか 晴れやかな日々を送るための仏教心理学講義」他多数。YouTubeチャンネル「精神科医が〇〇する名越康文のゲーム実況チャンネル」や「名越康文TVシークレットトーク【オモテ】」も好評

目次

買おうとしているのは家? それとも安心?

思い込みを手放すための話をしてきましたが、大事な判断がブレる理由は他にもあります。家を買う現役世代って忙しいでしょ。しかも、社会が流動化していて判断するのが難しい側面もある。

それにね、40代初めぐらいまでは “みんなと一緒” が安心するんだよね。だからつい、周囲から言われたことや同世代がしていることを基準に判断してしまう傾向があるんやと思います。手軽に安心したいから。

——家を買うのではなく、安心を買おうとしていると?

そう。しかも、安心って幻想なんです。みんなと同じだから安心できるはずというだけ。でもそれが根こそぎになくなることなんて、今の世界ではけっこう起こり得る。だからそれが「本当に安心できること」かどうかは自分と対話する必要がありますね。

もし、腑に落ちる、あるいは息が整うという 内臓感覚を感じたら、その判断は正解に近いというのが僕の考え。これは「感覚の心理学」という本の中で詳しく書きましたが、僕はこの感覚こそが本当の知性やと思っているんです。

内臓感覚を呼び覚ますためには、やっぱり歴史や自然に触れること。散歩をするだけ、公園で音楽を聴くだけ、温かいものを食べるだけでもいいんです。外で風に吹かれてるうちに、だんだんと自分の得心とか納得とかいう、本来自分の体に備わっている判断能力が開発されてくるんです。

最近、うつ病の予防治療でも、朝、光を浴びて散歩するっていうことを精神科の領域でも推奨し始めました。つまり、心を和らげるには、まず体に滋養を与えましょう、と。これは誰にとっても大事なこと。

光・栄養・運動といった刺激と滋養を体に与えると、心が晴れ上がってきて、新しい決断ができるようになるんです。より良く生きるために覚えておいてほしいと思います。

“好き” を広げることは自分自身を養うこと

もう一つ大事なことは、環境を敬うこと。これを古語で “居敬(きょけい)” と呼ぶようです。鈷山鏑射寺(とっこさんかぶらいじ)の和尚様が僕に「居敬楽道(きょけいらくどう)」と書いた紙をくれはったんで、額に入れて毎日見ています。あくまで自分流の解釈ですが、自分のいる環境を尊んで一体になって感謝しなさい、そうすれば楽しく人生を生きることができる、ということかと思っています。

それって難しくないでしょ? 自分の街が好き、自分の家が好き、自分の周りの人が好き。その環境に感謝する。居敬楽道です。そうやって愛する気持ちを広げていく、それを誰かと分かち合う。すると愛情ホルモンと言われるオキシトシンが出てきて、自分自身を大いに養うんやね。

足るを知ると幸せになれる

本来人間は、過剰なものや無駄なことを全部やめたらけっこう幸せになる生き物やと思います。シンプルな生き方に身体がフィットするようにできているから。でも周りにはさまざまな誘惑があるし、頭の中ではコンプレックスや怒りや焦りなどもうずくもの。シンプルに生きる難しさもよくわかります。

——弊社のコンセプトは「吾唯知足」。我、ただ足るを知る思想です。リノベを検討する際、足りないものがあってはならないけれど、過剰であってもいけないから、本当に必要なものについて考えてほしいとお伝えしています。

ほんまにね。必要ない高いものを食べるより、いかに機嫌よく食べるかのほうがどうしても満足は深い。機嫌が悪いとコクも味もわからなくなる。不必要なことをしていると判断が鈍ると思います。それは自分を不自由にしてしまうんです。

——名越先生にとっての自由とは?

ないと生きていけない空気のようなもんやね。でも、タダではないの。自分の居場所を与えてくれる周りの人や環境に感謝せなあかんと思っています。その上でこの自由、この居場所は自分にとってはワンアンドオンリーやって自分を信じることが大事なの。あるいはそう思える環境を見つける。そうしたら精神的に豊かになれます。それでも人生はいろいろあるけれど、比較的心穏やかに生きていける気がします。

構成・取材・文/樋口由香里 撮影/橋本裕貴

 

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