LGBTQが自由になれる住まいとは|専門家・葛西リサ教授 × ゼロリノベ・佐藤 剛 <後編>自分の生き方、暮らし方を守るために【大人の”自由”研究vol.1】

大人を自由にする住まい。それは、人生の選択肢を広げる「余白」があるということ。すべての人になくてはならないものだから、真正面から考えたい。自由とは? 余白とは? 家を、生き方を、住宅業界を、もっとより良くするために。不自由があるならそれを取り除くために。毎回テーマを変えて、スペシャリストにインタビュー
LGBTQの間に横たわる住宅問題について、弊社の共同創業者・佐藤 剛が聞き手となり、専門家・葛西リサ教授にインタビュー。賃貸や売買にどのような課題があるのか伺った前編に続き、後編では当事者の心理的負担の背景にあるものや、自由な暮らしをするためにわれわれができることなどを掘り下げていく。
[教えてくれる人]追手門学院大学 葛西リサ
くずにしりさ●追手門学院大学教授。ひとり親の居住貧困問題を始め、近年では性的マイノリティの住宅問題も精力的に研究。3月には「住総研 研究論文集 no.51」掲載の論文『多様な性を受容する住宅市場の再構築』が、2025年度「研究奨励賞」を受賞。『13歳から考える住まいの権利』(かもがわ出版)など著書多数
[聞き手]groove agent -ゼロリノベ- 佐藤 剛
さとうごう●国家公務員から独立し、企業ブランディングなどを経て、株式会社groove agentを共同創業。「大人を自由にする住まい」をコンセプトに、中古物件を購入してリノベーションを行う『ゼロリノベ』をスタート。当時から一貫してオールフレンドリーにサービスを提供してきた結果、LGBTQの方の事例も口コミで増えている
プライバシーを守ってくれなかったら、という恐怖
佐藤 家を買うというのは普通の人でもハードルの高い一大イベントだと思いますが、LGBTQの方が不動産会社に行くのを躊躇するというのは、賃貸物件探しで嫌な思いが数々あってのことでしょうか。それとも、不動産業界に対する漠然とした不信感があって諦めてしまうのか、制度面のハードルか……。
葛西 問題は複合的かなと思います。不動産会社に行くことについてアンケートを取ると、半数の方が「行くのが不安」だという回答なんですよ。不動産は過度なプライバシーを扱うところで、しかも仲介担当者、管理会社、オーナー、保証会社と関係者が非常に多い。その全員が高度なプライバシーを扱うので、1人でもリテラシーが低かったら差別に繋がってしまう。だから、嫌な思いは相当していると思うんです。

葛西 ある不動産会社の方が話されていたんですが、「普通なら男女の若いカップルが不動産会社へ行くってワクワクすることですよね」と。「たいてい内見にご案内すると、こんな家がいいね、ここにこんなカーテンをしてと話しながらものすごく生き生きするものなのに、LGBTQの方々が不安を感じているというのは、やっぱり不動産業界の責任として考えなければいけませんよね」というお話でした。
他にも当事者で、新築を依頼した設計士にどうしても性を開示できなかったという方も。なぜか聞いたら「住宅はものすごくプライバシーが詰まったものだから怖い。しかもそこを買ったら2人でこの先何十年住んでいくのに、もし設計士の人に『俺が設計したこの家、同性カップルが住んでいるんだよ』って言われたらどうしようと思って」と話してくれました。
それで、年齢が離れたパートナーのことを姪っ子だと伝えたら「1人ずつ個室が必要ですね。それぞれの来客も考えて広くします。お互いの部屋のプライバシーをしっかり守れるように」と希望と全く違う間取りにされてしまった。「精子提供を受けて子どもをつくるつもりだったから子ども部屋も欲しかったし、寝室も1つで良かったのに、使いにくい家になったので、子どもができたら新築だけどリフォームします」とおっしゃっていました。
将来の不安を解消する住まいのあり方・可変性
佐藤 子どもが欲しい、何人欲しいとか、こんなことをしたい、という今後の希望に対して、その時が来たら変えられる間取りにしておけるといいですよね。われわれは最初からガチガチに決め込んだ間取りにしない、というのが得意分野。箱だけつくって、必要になったら部屋をつくったりスペースを分けたりできるようにしておくんです。一般的な個室だと50万前後なので、子ども2人ならそれまでに100万円貯金してもらって。必要になったら、またつくりに行きますよという形です。
葛西 可変性があるんですね。
佐藤 LGBTQの方に限らず、いつ子どもを迎えるかはわかりません。それ以外の希望についても、将来のことは未知数だから、その時々を気持ちよく暮らせる柔軟な間取りにしておくことは重要だという考えです。

葛西 空間に余白をつくるってことですね。将来的な選択肢が広がると、子どもを諦めていた人も、つくってみようかとなるかもしれない。そういう提案は素晴らしいですね。
佐藤 お客様は年収の高い人も低い人も来られますが、どの方にも同じ対応をしています。その人の予算に合う物件の中で、必ず資産性があるもの、資産が落ちにくいものを選んで買えるように。物件をいつか手放す可能性があるのかないのか、という出口戦略も踏まえて、先々のことまで提案しながら物件を提供する。年収や物件に関わらず、大事な手順はしっかり守る。ただ、LGBTQの方は特に将来の不安があると思うので、今まで以上に細やかな対応ができたらと思いました。
葛西 そういうことを状態的にわかっていて、相談を親身に聞いてくれる業者さんが少ないので、そんなふうに寄り添ってくれるような人がいると、とても安心なんじゃないかなと思いますね。

佐藤 その時にまず築きたいのが信頼関係ですが、正直に開示できる、できないの違いはなんでしょう。
葛西 LGBTQの方に対しても平等だという姿勢でしょうか。社員研修をして知識があった、対応も素晴らしかった、というような不動産会社を評価する声も結構あります。
佐藤 われわれの場合だと「大人を自由にする会社」というイメージがあるからか、あまりそういうハードルがないみたいで、フリートークの中で開示してくれることが多いです。LGBTQの方だけでなく、お客様全員に対して、相手の雰囲気に合わせた服装で、フラットに話すことを心がけているんですよね。
個性という観点で考えれば、人はみんな何かしらのマイノリティだと思います。だからこそ一人ひとりの個性を大切にした住まいづくりをお手伝いしたい。物件購入の際に障壁のない人はほとんどないので、何かあれば誰に対しても都度、対応するという、当たり前のことを当たり前にする。そういう思いがあるので、LGBTQの方の専用窓口もあえて設けていないんです。
葛西 特別扱いされたくない、という声も多いんですよ。皆さん、普通のサービスを普通にしてほしい、とおっしゃっているので、そのスタンスはとてもいいと思います。

賃貸を借り続けられないから持ち家へ移行
葛西 いつか家を買いたいというLGBTQの声は多くて、その裏には賃貸でいつまでも同性で同居できないという切実な現状があります。特に男性カップルは周囲から「いい年してなんで同居?」って言われてしまう。それで30代後半になると、更新も難しそうだから持ち家にしようかというタイミングになるケースも多いですね。
佐藤 確かにうちのお客様にもそういう方がいらっしゃいました。
葛西 そこで、なんで持ち家を持ちたいのか聞くと「自分たちには子供がいないから」と。他に「資産が欲しい。それを担保にすれば老人ホームに入れるかも」という方もいらっしゃいましたね。
佐藤 将来の選択肢として大事ですね。売却して、2人一緒に老人ホームへ入るための資産形成をするという。
葛西 今、急増している単身者と状況が同じですが、子どもがいない自分たちの未来についてすごく考えるみたいですね。LGBTQには家族との縁が切れてしまってるっていう方や、周りになかなか関係性を理解してもらえない方も多いので、余計にそうなのだと思います。

匿名性と資源がない地方から大都市へ
佐藤 LGBTQの方が抱える問題には地域性もあるのでしょうか。
葛西 やはり、地方は匿名性がないので大都市に出ていく方が多いと思われます。生まれ育った街であっても、関係が密な地方では何かのきっかけで途端に自分のセクシャリティが赤裸々になるリスクがあります。それがいじめにつながることも少なくありません。でも東京や大阪のような大都市に行けば匿名性を担保できる。かつ、NPOなどの相談サポートも多いと言っていました。
例えば抑圧的な親にもっと男らしくとか女らしくと強要されて家から離れたくなっても、地方には行く場所も賃貸物件すらも少ない傾向があると聞きました。でも東京ならお金がなければシェアハウスに住むとか、とりあえずマンガ喫茶やネットカフェといった一時的に避難する場所があり、LGBTQを対象にしたコミュニティもある。だから、みんなそういう街を目指して地方を出て行くんだと話していました。

佐藤 地方で生きづらさを感じている方も、都会に出れば仲間と出会える場所があるのは希望ですね。確かに、弊社へ来られるLGBTQの方も、口コミで知ったという方のほうが多い。面談当初からあまり抵抗感なくセクシャリティを開示してくださるのは、それが安心感につながっているからかもしれません。物件購入もスピーディに対応していますし、一般の方の事例と大差なく、リノベーションまでスムーズに進んでいます。事前にパートナーシップ制度宣誓を済ませているとか、準備をされている方が多いという側面も大きいですね。
先生のお話を伺って、口コミだけに頼らずもっとあらゆる方に対して不安をワクワクに変えていけるようにしなければと、改めて感じました。ゼロリノベは関東と関西、そして名古屋市でも展開中。エリアを広げてたくさんの方に自由でいられる住まいを届けたいので、業界をリードして変えていけるよう、何ができるかを考え続けたいと思います。本日はありがとうございました。

構成・取材・文/樋口由香里 撮影/井上陽子
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